愚かしくも恋をして、根負けして頷いて、分かっていて契った。
わたくしはこの方が思うほど清らかでも誇り高くもない。
この方にひどく執着して、そのくせ自分のことばかり思って――恋している。
愛される一番になりたくて、でも全世界の誰よりもこの方を愛しているという自信もなくて……増大する不安が心を蝕んで、わたくしは随分と酷いことをこの方にした。
わたくしはこの方の性質を、たぶん誰よりも分かっている。
だから恋して、だから、逃げたい。
身篭った時に予感していた。彼が産まれた時にはっきり分かった。――ああわたくしはあの方の一番にはもうなれない――
フェアノール、フェアノール、あなたは誰よりも愛されている。そう、誰よりも。
一番でいられないなら、せめて、永遠になりたい。
永遠に残る傷になりたい。
あの方に傷を穿ち、心をとらえてしまいたい。
この方は変わらずに、愛してると叫ぶ瞳で笑うけれども、あたしはその時、時を待つ暗い湖のことばかり考えていた。