本を読んでいると、長椅子の隣に兄が座る。
座ったなと思う間もなく兄は、その頭を私の膝に預けてくる。おかげで私は読書を中断せざるを得なくなる。読んだって頭に入って来やしない。
しかし兄は私が読書をやめたとなると話しかけてくるので、私は本を手放さないまま、膝の上の兄の顔を盗み見る。
フィンゴンは不思議なひとなのだ。目を閉じていれば、顔立ちはいっそ母に似て、繊細に整っている。あの溢れんばかりの生気、元気、それらのものは全てこの眼差しから、そして表情から生まれるのかと思うと不思議になる。私の膝に頭を置いて眠る――少なくとも目を閉じている――フィンゴンは穏やかで静か、…生きていないかのようだ。
最も人形のようなのは従兄――父ほども年の離れた赤毛の従兄の方なのだが。フィンゴンの、兄の、恋焦がれる美しい従兄――そして、私たちの仲を軋ませる原因だ。
私が物思いに耽る。フィンゴンが寄ってくる。
逃がしたくない。
私はそうして出来るだけ兄を刺激しないようにつとめるのに、寝顔を見つめれば愛しさは溢れ、つい身体がびくりと動く。
向きを変えると、眠りの浅い兄はすぐ呼吸を乱し身じろぎするものだから、その度に私は息を止める。彼の呼吸が落ち着けば、私の鼓動もそれと合わさる。吸って、吐いて。吸って、吐いて。兄が目を覚まさない、その時間だけ、私は不思議に緊張し、また安らいでいると実感する。
ああ、止まれ、何もかも。