指輪

 マイグリンは石を掘る。
 山を穿ち土を刻み、鋼と宝玉を掘りだす。
 だが、自分が宝玉の加工に向いていないのはよく知っていた。輝くゴンドリンで、かつて大きな黄玉を、愛しく思うかの金髪のような輝きの宝玉を手にしたことがある。つまり、磨けばそのようにも輝くだろう原石を、だ。
 はじめは順調に思えた。不得手、というわけではなかったが、初めてのことのように緊張を覚えつつ、丁寧に、ごく慎重に取り扱ったのだ。
 けれど、ただひと打ちで、宝玉はさんざめく砕けた。
 その記憶が重すぎて、のちに見事な金剛石を掘り出してもマイグリンは触れようとしなかった。
 ただ石としてそのままに、宝玉となれば花ひらくようなきらめきを――思い描くだけで。
 石はどうなったのか、行方を知る由もない。

 ケレブリンボールのとりわけ好きなのは石であった。
 好きというには語弊があるかもしれない。そもそも彼の家系の得手とするのは石だった。宝玉の加工、という意味だ。祖父も父も、宝玉の選定と加工に関しては他の追随を許さない。けれど同時にその二人とものどちらも、好んでそれをするわけではなかった。
 ケレブリンボールの執着するのは石であった。石だけでもない。宝玉であった。大地の産む、海の産む、それを、よりうつくしく見えるようにと考えて為す。それがたまらない恍惚なのであった。
 指輪をつくった時、思いよりも早く手は動き、決められていたかのように形を成した。青玉を、紅玉を、金剛石を――風を、火を、水を。
 石に申し分はなかった。金剛石にせよ、青玉と紅玉の双子石にせよ。片方はどうやら同種族となったらしい英雄にそっと手渡されたものであり、片方は種族を違える親友から貰ったものだ。
 金剛石の指輪は息を飲むほどに透き通り、花を咲かせた。
 その花を眺めて、ケレブリンボールはふと鬱鬱とした気持ちに襲われた。
 ぽっかりと感じた空虚は誰のものだろう。紛れなく最高の仕事を成したのに、胸に兆したのは光ではなかった。

 ギル=ガラドは宝玉で身を飾る王である。
 その飾りのほとんどすべてを造った再従兄からの最後の贈り物が、指輪であった。
 青玉と紅玉。力の指輪。風と、火。掴めないものを掴んで、どこまでゆけるだろう。造り手の憂いをそのままに受けたように、重苦しい兆しが胸を支配する。
「水はあの方のもとへ…」
 呟き、ギル=ガラドは微笑んだ。見たこともない金剛石の花。形と、輝きと、力を留めて。持ち主にとても相応しいと、それだけは喜ばしく思えた。