ドラゴンは悪臭を放ち、周囲のものを死に絶えさせる。その息は毒、その血は毒、闇と宝を好み、掴んだものは決して放さない。
そのすべてが間違いではなかったが、知られていないことも数多くあった。
たとえば闇を好むものたちの忌み嫌う太陽が――グラウルングは嫌いではないこととか。
グラウルングは日向ぼっこが好きだった。
この巨大な黄金のドラゴンは、アングバンド内で最も太陽に敏感だったと言える。実際彼はサンゴロドリムの中腹の、なんとも日当たりの良いところにねぐらを構えて、暇さえあればそこで黄金の鱗をすべる陽光を浴びながら金色の夢を見ていた。
その息は毒だというが、金色の陽だまりの中で彼のくゆらす息は金の光を巻き込んで虹色に輝くだけだったし、その血は毒だというが、彼は陽光の下で闇の中にいるのとは違う心持で安らいでいた。
グラウルングの主も陽光自体を嫌うのではなかった。主は太陽の裏にあるもの、かつて共にありそして決別したものへの気持ちから、光を嫌うのである。従って、グラウルングを咎めはしなかった。奇妙な顔で黙りはしたが。
日向ぼっこをするドラゴンの元へ来るものはめったにいない。
グラウルングは平穏に黄金の眠りを貪っていた。
その日向ぼっこに小さな侵入者が現れたのはごく最近のことだ。
ある日その侵入者は、まるで力のない足取りで日向へ歩み出すと、あろうことかグラウルングの尾を枕にして睡りこんだ。
グラウルングはついと頭を振り向けて、侵入者をまじまじと見た。尾をぴくりとも動かさなかったのは何故だろうか。
睡っているというよりは気絶しているのかもしれない。それは夜の色を身にまとった、痩せっぽちで青白い、エルフのこどもだった。
黄金の夢に遊び、再び瞼を開けた時には、こどもはもういなくなっていた。
どれほどの時が経ったのか、さほど時を置かずしてのことかもしれなかった。
グラウルングはそのこどもと幾たびか話した。こどもはドラゴンを特に恐れることはなく、――だがそれは忌々しい勇気とかいうものの成せるゆえではなく、空虚ゆえのことだった。
好ましい妬みや恨みを抱えて、光に対する憧れと忌々しい気高さをも持ち、それらすべてを透明な空虚が包み込んでいた。黄金色の陽光の下で向かい合った瞳はなお空虚な夜空であって、こどもがここにいるわけに納得がいった。
グラウルングはこどもに小さく円いものを渡した。石?とこどもは首を傾げたが、グラウルングが答えることはなかった。
黄金の塊のように見えたかもしれない。こどもの夜の瞳にうつって星のようであったかもしれない。
それは、卵だった。
孵るだろうか。はたまた。
グラウルングは夢を見た。陽光の下で、うっとりするほどの夜空の夢だった。