どなたです、と星の囁きのような声は、ケレゴルムを見た瞬間、すうと熱のない声に変わった。
「なんだ、そなたか」
ひどくつまらなそうに投げかける視線は、力ある者の眼。
「おすましは大事にしろよ。百年の恋も冷めるぜ」
「若造が何を抜かすか。妾に用無くば去ね」
「今日は一段と美しい。フアンも靡くな」
ルーシエンは眉を顰めた。
「――そなたが手放すからじゃ」
「……どうだかな」
ケレゴルムはくつくつと笑う。シンダールの王の掌中の珠、人の子を慕って森を抜けだした小夜啼鳥は、ケレゴルムには不遜な顔を見せる。
初めからそうだった。
クルフィンが去って2人きりになるとすぐにルーシエンは、ケレゴルムの瞳をとくと覗いて、マイアの声で告げたのだった。
「哀れな奴」
ケレゴルムは笑った。
「マイアにはわからない」
「妾はクウェンディじゃ」
「どうだかな」
嘲るような表情をして、しかし声だけは寂しく響いた。
「なあ、ルーシエン、俺と結婚しない?」
「結婚は―――余計だ」
「じゃ、恋は?」
「恋は請われてするものではない」
ケレゴルムはまた笑った。ルーシエンから見れば、彼はいつも笑っている。その瞳は何ものをも見てはいないけれど。
「恋は重荷だな」
その乾いた瞳のままケレゴルムは続けた。
「決まっていれば楽かもしれないが」
ルーシエンは息を飲んだ。
「……、憐れな奴」
ケレゴルムは誰かの名を呟いた。瞳を閉じ、また開けて、嫣然と笑った。
「力ある者に憐れまれるのはまっぴらだ!」