王宮の奥庭の石造りの長椅子は、ネアダネルの気に入りの場所で、そこにいると大抵フェアノールもやって来る。そして腰掛けるネアダネルの膝に頭を預けて眠る。
穏やかに彩りを変えていく空を眺め、ネアダネルは子守唄を口ずさむ。夫はこどもではないけれど。
空からゆるゆると目をおろすと、フェアノールの顔をじっと見た。
石を刻む者の目からするとフェアノールの姿かたちは何とも扱いづらい素材で、だからこそひとりのエルダールとしては、相反する好意と嫌悪を感じ、女としては眩暈がするほど魅力的だと思う。
それらすべてを傍らに取り除けておくか、もしくは内に抱え込んでしまった“ネアダネル”としては、フェアノールについて思うことは、言葉にすればたった一言なのだ。いつの時も。
(あなたがいないと淋しいわ)
確かに一緒にいるはずなのに、寝顔を見つめていたら涙が出た。
ネアダネルは空を見ると再び歌いだす。あとからあとから風が涙をさらっていった。