「そういえば、フィンウェは元気だろうか?」
マンドスの案内人、かわいい養い子に、イングウェはなんの気なしに友人の近況を尋ねた。
「そーですねぇ…赤表紙本持って行ったら、ネタにしてフェアノールさまで遊んでましたよ」
「はぁ?」
赤表紙本をさっそく持って行ったのはわかる。
マンドスのエルフが暇を持て余しているのはイングウェもよく聞く。
しかし、フェアノール「で」フィンウェが遊ぶとはどういうことだ。
「共通語読めないフリして、クウェンヤの全訳つくらせてました」
「………」
「だから、もうじきクウェンヤ版が出回ったりしますかも」
「………」
それか。その遊び方か。
「でもですねー、マンドスの住人は、大半の物語はつづれ織りで見てたんですよ」
「…ああ、だろうな」
「そんなわけだから、フィンウェさまが悪ノリしちゃって、挿絵も入れろって言ってました」
「………それはまた、…フェアノールは真面目につくっただろうな…」
フェアノールのフィンウェへの愛は、ヴァルダのマンウェへの愛なみによく知られている。
あの男は、父に言われたらなんだってやるに違いない。
「ええ。で、全文クウェンヤで、つづれのスケッチ画がついた本ができたんですけど」
「けど?」
「フィンウェさまがフロド殿にそれを贈ってしまいまして」
「おやおや」
「フェアノールさまがめっちゃくちゃ悔しがって、写本じゃない本のつくりかたを今考えているそうです」
さすがにフェアノールが哀れになってきた。
イングウェは思った。
フィンウェ、貴方、マンドスはよっぽど住みごこちが良いらしいな。
…今まで隠しに隠してきた本性、というか素というかが出てるぞ。
「……フィンウェに、息子をからかって遊ぶのもほどほどにしてやれと伝えてくれ…」
「伝えてみますけどー…」
「だって……本当は、読める、んだろう?…フィンウェだし」
「読めるでしょうねぇ…。共通語くらい、ちょちょいのちょいだと思いますけど」
ああ良かった、養い子は(当たり前と言えばそうなのだが)ちゃんとフィンウェの本性…というか素というか…には気づいているようだ。
イングウェはちょっぴりほっとした。
「フェアノールだって分からないわけないだろうに…」
言いつつ、同時に、いや待て眼がくらんでいるから気づかないのかもしれない、などと思う。
「いやもうですから、」
養い子はなんだかとっても投げやりに言った。
「あれはあれでいちゃついてるだけなんじゃないですか?」
「…………」
「…………」
イングウェは思った。
エイセルロス、かわいい子、…そなた疲れてるなら休暇を貰え。
「……お、…親子仲が良いのはいいことだな、うん」
しどろもどろに纏めたイングウェに、エイセルロスはやっぱり投げやりに、そういうことにしておきましょうかぁ、と言った。