(いつかどこかで)
(いつかどこかで道を歩いてゆくのです)
(道の先には船と港。そして船を造るノォウェさま)
(そうやってみんなで、船に乗ったのです)
【Ⅰ】
まったくもう、これだから王なんてなりたくなかった。ずるい。ずるいよ。私だって母上も父上もいなかったのに。そりゃあ、アマンに先に一度行ってきたけれど…。王なんかじゃあ、知ってたって言えないじゃないか。いいことだとは思うし、私が混じっちゃいけないものだってわかってたけど、そうやって君たちがほんとの家族みたいに仲良くしてるのを見てたら、やっぱりずるいって思って仕方ないんだ。だって星の下にはもう戻れない。
「何むくれてるんです。お知恵さん」
「マハタン。君の母君はすごいけど、ずるい」
「…………まだこだわってたんですか?」
「まだって何さ。…ああもう。ほんとに、王なんてなりたくなかったのにっ」
「いえもう、今さらねぇ…。ノルドの誰に聞いてもあなた以外選ばれないでしょうに」
「………(ぶすー)」
「ミーリエル、ちょっと!お知恵さん拗ねましたよなんとかして下さい!」
「まぁ、殿、何をそんなにふくれてらっしゃるの。わたくしの家族はお嫌い?」
「………嫌いじゃないけど」
「けど、なんです?わたくしの家族は貴方の家族でもあるのに」
「!(ぱぁあ)」
「弟たちがお嫌いなの?」
「(ふるふるふる)大好き!」
「嬉しいわ(ちゅ)」
「ミーリエルっ(だきっ)」
「………これだよ(げんなり)。ルーミル、お知恵さんさ、そろそろ改名してもいいと思わないか?」
「そーですねー…」
「愚かさんでいいんじゃないかなもう…」
「……それはむしろお知恵さん、願ったり叶ったりで王さまやめる言い訳にしかねないと思いますー」
「う!そうか」
「いいんじゃないですかー、ほっといて。僕としてはお知恵さん幸せそうなら結構どうでもいいんでー。ミーリエルも嬉しそうだし」
「……まぁ結局そうか」
【Ⅱ】
おかしい。なんだっていつの間にオルウェはわたしよりもイングウェなんぞに懐いているのだ?ええいイングウェ!そなたなんぞに可愛い弟をくれてやった覚えはないわ!こら返せ戻せ離せわたしにもぎゅーとかさせろ!久しぶりに会ったのに!
「兄上…(頭抱え)」
「エルウェ、そなたなぁ…。そなたがそんなんだからオルウェが苦労するとまだ分かっていないのか?」
「なぜ苦労するのだ。何も迷惑かけてないぞ(ふんぞりっ)」
「オルウェ兄上ー。お久しぶりです♪」
「え、エルモ…。兄上は相変わらずだな…(汗)」
「そうですね。相変わらず、好きなものにはまっしぐらですよ」
「……あの、エルウェ?そういう台詞やら弟への愛情は、とりあえず私に抱きつくのをやめてから言うべきだと思うよ」
「どうして」
「真実味がないからだ。オルウェに近づきたかったらまずフィンウェから離れろ」
「そうですよ兄上。メリアンさまに怒られますよ」
「なぜに。みんな好きなんだからいいではないか」
「だからそのロクでもない博愛主義は直せとさんざん言っただろうに…」
「なーんだイングウェ。そなた、わたしへの腹いせにオルウェを取ったのだな」
「は?……私が何故そなたへ腹いせをしなければならないのだ」
「わたしがそなたを可愛がらないから(きっぱり)」
「………(絶句)」
「……………ほんとうに、…兄上は相変わらずだな…」
「ええまあ、あの調子で国中のエルフに甘え倒してましたよ」
「国中かぁ…。それは凄い。私もやってみれば良かった」
「!…あの、フィンウェ殿、それはきっとおそらく洒落ですまないでしょうから、やめておいた方が…」
「……、っだからどうして!私が!そなたに「カワいくない」とか言われたくらいで拗ねて腹いせだのなんだのを目論まなければならんのだっ…!」
「ほら怒ってるではないかー!イングウェ、今度褒め称えてやるから今後は嫌がらせをするでないぞー!」
「だからそういう理由ではないと…!」
【Ⅲ】
……こらフィンウェ!そんなふうに私をからかうのはやめてくれ。本心もかなり混じっているのだろうが、貴方の本性を知らない純粋な可愛いノルドをこれ以上たぶらかしてどうする。大体、貴方の妻の身内だろうに…。まったく、そこも貴方らしいが、甘え方に毒がありすぎるのだ。
「君がエレンミーレ?お噂はかねがね」
「光栄です、フィンウェさま」
「うちのルーミルと仲が良いんだってね?とっても良い子なんだ。これからもよろしく(にっこり)」
「………!!(ぱぱぱぱっと赤面)…お、…お知恵さん…!」
「……………(赤くなったルーミルと、超にっこりなフィンウェを見つめる)」
「……あ、あのなフィンウェ…(嫌な予感がした)」
「(くるりっ)」
「(ぎく);」
「………“うちの”って」
「…(汗)……な、なんだ、エレンミーレ…?」
「“うちの”って、言って、ま す よ … ?」
「……だ、だからなんだ、エレンミーレ」
「(きっ!)イングウェさまも言ってください」
「な…?」
「だから!イングウェさまも言ってください紹介してください今すぐさあ!“うちの”エレンミーレをよろしくって!」
「な、なぜ私が」
「あなた“うちの”王でしょう!?さあ言ってください早く!わが君!」
「いやだからなにゆえ私が!そなた父君がいるだろう!」
「父上に言ってもらったって当たり前です。面白くもなんともない」
「お、面白いという問題なのか…?」
「ほら見てくださいわが君!このルーミルの凄く可愛い反応!もうさぞや嬉しかったに違いないですよ!私にもそういう気持ちを味わわせてくださいよ!」
「あー…可愛いとか言われちゃいましたよ僕…」
「ルーミル、エレンミーレって面白い子だねぇ」
「そーなんですよお知恵さん。というか、僕からしてみれば、イングウェさまも相当意外と面白い方なんですねーって感じなんですけど」
「んー…イングウェはいつもあんな感じだよ?」
「そうなんですかー…」
「そうなんだよ」
「そうなんですか…あの、お知恵さん」
「なんだいルーミル?」
「嬉しかったんですけどー…今度から不意打ちはやめてください。心臓ばっくばくいってます」
「そう?……でもうちのルーミルに違いはないからね。不意打ちになりかねないから覚悟しておいて」
「……(またちょっと赤くなった)…へへ、はい」
「こらフィンウェ!身内をこれ以上たぶらかしてないでエレンミーレを止めてくれ!」
「助けなんか求めてないであなたはさっさと私を紹介してくれればいいんですってば!」
「がんばれーイングウェー♪」
「応援されても嬉しくないぞ…!」
【Ⅳ】
……なんだか、昔から変わっていないのか変わったのか…。いや、エルウェ伯父は知っていたが…そんなことを言ったらエルモ叔父だって変わってないんだが…。オルウェ伯父は…なんというか、母上も母上でどちらかといえばエルウェ伯父に似た性格だからな。苦労をかけただろう…む、それを言えば私も私か…。うーむ…。なんで私はあんなにエルウェ伯父にこだわっていたのか…。
「でも、後悔してないんだろう、ノォウェ殿」
「そうだなー…。まあ、アマンに渡っても楽しかっただろうが…。今となっては渡るのも怖い。どんな所か想像もつかない」
「そうだな。…とりあえず、あなたをノォウェと呼ぶ方々がいる」
「(ふふ)貴男もそのひとりだがな、マハタン殿」
「そうだな。それから、あなたをキアダンと呼ぶ方々がいる」
「……今もこちらにいる」
「だが向こうにもいるよ。それから…あなたのことを物語にのみ聞いている子らがいる」
「やれやれ。こそばゆいものだ。私はただ、ほとんど意地のようにここに残っただけだというのに」
「意地でもなんでも、あなたが残ったからこそ、…もう置いていかれるエルフはいなくなる」
「そうあってほしいが」
「俺は、もしかしたらアマンに置いていかれているのかもしれない」
「…………」
「中つ国に残り続けるあなたに、置いていかれているのかもしれない」
「………マハタン殿」
「皆、あなたを待っている。…最後の船を」
「そう遠いことではないと思う。――私も、西へ行きたいと思ったから」
「……俺のせい?」
「(ふふふ)貴男のおかげ」
「口説くのが上手いな。ノォウェ殿」
「誑すのが上手いな、マハタン殿は」
「………。待ってる」
「怖いような気もするが…仕方ない。参りましょう。そのうちに」
「そのうちに」
(いつかみるゆめ)
(みんなで、ふねにのる)
(さあ、最後の船のやってくる時には迎えましょう――みんなで)