「そんなに離れがたいのならば、ついてゆけば良かったのに」
海の呼び声を、空をゆく心で聞くわたしに、君は云う。
ああ、それはいつかも聞いた言葉だとどこか心の隅で思って、そしてわたしは曖昧に微笑む。
過去にしたように、曖昧に、笑む。
「だいたい何じゃ、見送りにも行かずにわしの所なんぞ来おって」
午後のあわいの陽の光、君の金の髪は光になる。穏やかな光に。まもなく日が暮れる。
灰色の港から船はもう出ただろうか。
「甘えたいのなら今くらいは甘えさせてやるぞ」
そんなことを云った君の体がかすかに震えていたのを、わたしは知らないわけではない。
わたしの朝は、成し遂げるために西へ渡った。彼女は帰るのではなく、ゆくのだ。西へ。
ねぇ、だから、ここで見据えて立つ君よ。
甘えさせてくれるというなら、そうしよう。そうして、甘やかされたわたしは君を甘やかし続けるだろう。
「………いってしまっても、よかったのに」
いいや、淋しがりやの君よ。それだけはわたしはしない。
+++ +++ +++
レゴラスが発った。君はやっぱり強がりを云ってあの子を送り出した。
最もその強がりを、当然あの子は見抜いていただろうけれど。
君は云ったね、「見送りも行かずに」と。
その言葉を君に送るのはたやすいけれど、わたしはあいにく君のように意地っ張りではない。
ねぇ、だから、ここに留まり立つ君よ。
「……海はわしを呼びはせぬ。至福の国はわしには遠い」
ここを愛しみ立つ君よ。
「中つ国が――、わしを呼んでいるのだ」
だからわたしはここに残る。君のために。そしてわたしの望みのために。
そしてわたしは君の成し遂げるのを見るだろう。誰よりも、近くで、まっすぐに、君だけを見つめるだろう。
それは恋の睦言のように優しくわたしの心をとらえて、わたしは、海の呼び声を聞かないことにする。
それゆえに、世界はわたしをも呼んでいるのだ。
モノカキさんに20の台詞 お題01「世界が俺を呼んでいるのだ」