異母兄は、彼女の姉弟たちと極力関わらぬようにしているようだったが、彼女自身とは方々で良く会った。
もちろん、イリメはただ何となくそこにいただけであって、フェアノールは何かの目的のためにそこに来るのだったが。
その日は何故か花畑でばったり会って、フェアノールはイリメの髪を編んだ。花のように花と共に編まれた髪は、とんでもなく華麗な出来だった。
髪を編まれながらイリメも花輪を編んでいたのだ――が、こちらの出来は随分無残で、イリメは(あらまぁ)と首をかしげる。
「そなたらしいな」
花輪を取り上げながらフェアノールが言った。
「父上にさしあげるといい。何も考えずに愛でられる」
イリメはくるりと振り返った。
「父上は考えすぎなの」
薄い瞳をすがめて、フェアノールは「ほう?」と言った。
「わたくしのことは、考えなくてもいいの」
何か湧き上がるような思いに駆られて言葉を紡ぐ。
「わたくしはあんまり頭が良いわけではないし、努力家でもないの。好きなことも“がんばり”たくはないの」
フェアノールはじっとイリメを見つめていたが、不意に手を伸ばし、頭に触れた。撫ぜるようなそれに、イリメは視線を落とした。
「すこし、なまけものかしら」
うつむいたまま、しばらく沈黙が流れた。さわさわと、遠く梢を揺らす風の音を聞いていると、目の前に花輪が突き出される。
「……期待されないのは辛くはないのか」
イリメはゆるゆると顔を上げた。
「どうして?」
フェアノールはちいさく微笑った。
「妹殿がそう思うのならそのままで良いのであろうよ」
花輪はフィンウェの手に渡り、彼はたいそう喜んだが、イリメはフィンウェの喜んだのは、フェアノールがイリメの手を引いてティリオンに帰ってきたからだと思った。
こども扱いでいいと思った。父も異母兄も、イリメを正しく見ているのだから。