イルモ

めちゃめちゃ可愛くて、めちゃめちゃ不器用で、めちゃめちゃ苦労を背負い込むのがイルモー。

エステはそう夫を認識している。
癒しがいがあるというものだ。
ところがそんな夫は「不器用で苦労を背負い込む」だけに、
万年表情欠乏気味のお仕事第一兄上と、万年表情単一気味の世界一の泣き女妹君を、そりゃもうめちゃめちゃに心配している。

エステは知っているが、ナーモだって妻がいるしちゃんと息抜きもしてるし(主にエルダールをからかって)
あんまり喋らないのは単に口下手なだけだし(歪んで伝わりそうで怖いらしい)、
だいたい寝起きにあれだけ赤子のようにさまざまな表情してるひとが、日中多少無表情でも何が悪いってんだ、という感じだ。

ニエンナに至っては、担当分野が実は近いこともあって、前にかなり長いおしゃべりをしたことがあるが、
彼女だって年中泣いているわけではないし、別に陰気なわけでも湿っぽいわけでも、極端に後ろ向きというわけでもない。
だいたいいくらヴァリエでも、常に泣いていたら今頃エルフでいうマンドス行きな状態になっていることは間違いない。

そう思いながら、それでも夫の好きなようにさせていたエステだったが、
ある日、イルモはそりゃもうめちゃめちゃに深刻な(そして可愛い、とエステは思った)表情で、話しかけてきた。

「わたしはもしかして、兄と妹にかまけすぎだろうか」

とうとう悟ったのかしら、とエステは思った。
それとも道ばたでヘンなものでも食べたのかしら。
メルコールが屋台出してたとか。

「その、わたしがあんまり兄と妹ばっかり気にしてるから…君が愛想つかしたのかと思って…」

最近、エステから話しかけてくれないし…。
もじもじとイルモは言った。
全体的にしょぼん、としていて元気がない。

え。
エステはにこにことお得意の笑顔を貼り付けたまま固まった。
一瞬思考が真っ白になった。

「そ、そんなことないよっ!?」

いつもの余裕(というか無関心気味)はどこへやら、エステは大慌てで叫んだ。
自分のことには多少鈍感かもしれない、とは思っていたが、最愛の夫に関しては絶対に変調があったら、気づくわ!気づくはず!
と自負していたこともあって、今の発言は晴天の霹靂。
ありえなーい、ってな感じである。

「そ、そう?…本当に?わたしのこと嫌いになってない?」
「嫌うはずないじゃん大好きだよ!」
「そう?………よかったぁ」

イルモは安心したように、ほわ、と笑った。
エステもまた心からにっこりして、そして夫に対しての認識をちょっぴり修正した。

めちゃめちゃ可愛くて、めちゃめちゃ不器用で、めちゃめちゃ苦労を背負い込む、

……めちゃめちゃ予想外なのが、イルモ。