こんな誇りを抱いているのはやはりわがままなのだ、と確信している。
出会った時から幾度もわたくしはわがままよ、と彼女は言ったが、それでもいいのです、やら、そこがいいのです、やら、私も同じくらいわがままですよ、と夫は返してくるものだから、エアルウェンはすっかり安心して自由に息ができた。
アマンに暗闇が訪れて、義父が殺されて、ノルドール族は中つ国へ向かうことを決めた。
エアルウェンも支度をした。行き先はアルクウァロンデだったが。
フィナルフィンたちの出発は他の誰よりも遅かった。
ティリオンがほぼ空になるのを見届けて、エアルウェンも馬に乗った。彼女が速く駆ければ、すぐに夫に追いついた。無言で並んだ。
そして彼女は、故郷の都の惨状を見た。
フィナルフィンを見た。
そうだ、彼からまだ聞いていない。ゆくのか、ゆかぬのか。
「やっぱり…」
「エアルウェン」
ただ静かに名を呼んだ夫に、ふと、まざまざと、エアルウェンは夫はノルドであったと思い出した。
「……わたくし、わがままよ」
エアルウェンは闇に沈む銀と真珠の都を指し示した。
「帰るわ」
フィナルフィンは頷いた。
「ああ。私はゆくよ」
エアルウェンは馬を駆った。
嘆きと怨嗟の声満ちる港。故郷の都。彼女は帰った。
呪われしノルドの族を夫にもったことを、誇りとして抱いて。