月の島の舵を取ることになったマイアはティリオンといって、オロメ配下の狩人だった。口数は少ない方で、いざ喋るとどことなく幼い口調、それに象徴されるようにおとなしやかなぼんやりマイア――ただし、弓の腕は見事と言う他なかった。その速さも、強さも、正確さも、ティリオンに敵う者はいなかった。
本人も狩となると生き生きとしていたし、誰もが、ティリオンはこのまま狩人でいるだろうな、と思っていた。しかし、新たに月の島が出来、それが空を征くことになった時、常にない激しさでもって「やりたい!」と叫んだのはティリオンだった。
「だって、月の島、銀の花、テルペリオン!」
………ティリオンといえば「銀」が好きというのも有名な話で(少しの例外もあったが)叫びの内容に方々がそれを思い出して頷き、一部頭を抱えた方もいた。
「お前できるのかよ」と突っ込んだのはオロメ配下の仲間たち。
どちらかと言えばぼんやりで、銀には見境ないティリオン。月の島を大事に世話するならばこれ以上の適任はいないだろうが、月には空の道を征く役目があった。
ティリオンは頬を紅潮させて反論した。そんなところがこどもじみていて、危なっかしいのだとは分かっているのかいないのか。
「できる、できないじゃない!ぼくがやりたいから…」
言葉がふっと途切れた。
真っ直ぐに、空色の視線の先のマイアただひとりを見つめて――ティリオンは言った。
「やりたいから、やるんだ」
視線の先のマイアはゆるやかに微笑むと、ヴェールを翻して歩いて行った。
その流れる雪銀の髪を、ティリオンはまるで焦がしそうに見つめていた。