「ヴァラールのことなど知らないが、とりわけ貴女は何を考えているのかわからない」
噛みつくように言い放ったクウェンディの名をマイグリンと言う。
ニエンナは忘れられぬ憂いを深く沈めた瞳で、この、とても好ましく思っているクウェンディを見返した。
彼の嘆きは慕わしくニエンナの心に響く。そして余計に、マンドスで対話せねばならぬ者として現れてくるのだった。
「わたくしの司るもののひとつは悲嘆。けれど、わたくしにも心おどるときはございます」
ニエンナは手を伸べた。マイグリンは何か苦しげな表情でその手を見た。
息が小さく鋭く吸われて、震えながら吐き出された。
「そこへ行くには…」
ニエンナはじっとマイグリンの目を見た。マイグリンは真っ向からニエンナの目を見返した。
「――わたくしと、一緒なら」
アルダに在るものをニエンナは憂いをもって眺めるが、ただひとつ、あまりに凪いだ哀しみをもって見つめたものがある。
その光、その輝き。
マイグリンの瞳はまさにその色をしていて、ニエンナはこのごく若いクウェンディをいっそう慕わしく思った。
外なる海を眺めて、ふたりはたたずんだ。
ニエンナは時おり微笑んだ。マイグリンは囁くような声で時おり歌った。心ふるわせて。
「まだわたくしがわからないとおっしゃいます?」
尋ねてみると、マイグリンは少し、目を細めた。
「いえ」
外なる海の岸辺では誰もその様子を見ず、ふたりは長いこと、そこに、いた。