花を見ているが見ていない。空を見ているが見ていない。
何もなければ、庭や階や窓に座って、いつまでもぼんやりしている。そんなところがフィンゴルフィンにはあるのだった。
フェアノールであればもっと何かひとつに集中するだろう。フィナルフィンであればもっと色々なものにそれぞれに興味を惹かれるのだろう。そうではなく、ただその空間に在るというくつろぎ方が、その性質がアナイレは好きだ。
幼く稚いと言ってもいいような素直な見方で、ただ世界を肯うそのたたずまいがアナイレは好きで、ごくたまに怖くなるのだった。
後に長男のフィンゴンが、従兄どのに初恋をし、かつそれを今でも続けているということを聞いた時、フィンゴルフィンは笑うでもなく真面目に言った。
「囚われるのは性格か、体質だろうな」
性格はともかく体質というのはどうかとアナイレは思ったものだが、思ったと同時にすぐ気づいた。殿の肯い方こそ体質というものかもしれないわ。
アナイレがそう考えていると、フィンゴルフィンはアナイレの方を見て、ちょっと笑った。
「変えられないんだ。私は変えられないものがあるし、異母兄上には、認められないものがあるし。――父上は、すべて、受け入れてしまうから」
「………損な体質ね」
フィンゴルフィンは妙だ、と言いたげな顔をした。
「体質?」
「性格でも構わなくてよ。つまりあなたは愛しい頑固さんだということ」
光はあの頃とは同じではないけれど、アナイレは階に座って、ぼんやりしていた。
空も花もすっかり霞んで、ただただ美しいカタマリになる。風が涙を揺らして落とした。
世界はとても、静かだった。