フィンゴン

 幼なじみのはじめの息子(赤子の頃からよく知っている)は両親に似て面白い子で、そんなことだろうとは思っていたが案の定、物凄く直感的な良い男に育った。
 赤子の頃、頬をつついてやりながらそう言うと、幼なじみはちょうど夫に口説かれた時と同じような微妙な表情をして、まあいいわあなたが気に入ったのなら、と呟いた。
 気に入ったか。
 質問ならば答えようか。
 気に入った。
 気に入らないわけがない。

 彼に「幸せとは何か」と尋ねたことがある。何度も尋ねている。なのに彼は何故かいつも訊かれたということを忘れている。
 首をすこしだけ傾ける。それから、唇がほんのすこしだけとがる。
 しばらくして、霧のかかった紫の目をみはって、言う。
「あんたが好きだ」
「……それで?」
「好きで、それが幸せだ」
 ほら、直感的な良い男だろ?

 披露した話に幼なじみは呆れた溜息をついて、まあいいのよあなたが気に入ったのなら、とまた言った。私は頷いた。