フィンロド

「幸せとは何か」と訊いた。
「無」
「は?」
「だから無」
「………。」
「フィンゴンだめだよ全然似てないよその反応に困った顔」
 誰にも似せたつもりはなかったが、すぐ下の弟とこれ以上になく仲の良い従弟は、トゥアゴンはもっとこう世界が終わった瞬間をうっかり見逃したみたいな顔してるよ、とおそらく激しく失礼なことを言い放った。
「幸せが、無?」
 気を取り直して訊き返すと「うん」と頷く。
「無。それが幸いってものだよ」
 しみじみと言う姿はなんだか祖父に良く似ていた。
「……何も無いのが?」
「何も無いのが」
「……………なんで?」
 トゥアゴンに何かを訊いた時よりよほど長く考えてから、理由を訊いた。
「何も無いから」
 答えはごくごく簡単に言われた。
 黙ったおれの前で従弟はぐるぐるうねうねと髪をひとしきり編むと、言った。
「最初っから無いんだ。だから見つからないし一生ずっと追いかけるんだ」
 何が、――聞こうとして、不意に分かった。
「フィンロド」
「何」
「あいつもそう言った?」
 従弟はにーっと笑った。おれは頷いた。