棺に横たわる王の傍らにいたのは、まるで光のような多彩さと、それでいて白いもので、マブルングは息を詰めて立ち止まった。それはまるで造り直されたナウグラミーアのようで、まっすぐに見つめてはおれないような、一種悲痛な輝きをしていた。
「この時が来ることはわかっていた」
それが発した声に、マブルングは深く頭を垂れた。
「王妃様」
「鏡のようなものだもの」
ふわりと空気がゆらめくのが感じられた。マブルングが顔を上げると、そこには常の王妃が、エルフの姿を身に纏ったマイアが氷りついた表情をして坐していた。
否、やはりメリアンの姿は常のものではなかった。白い肌は光の透けるのを抑えた色をしていたし、黒髪は多彩な混沌をようやく落ちつかせた色をしていたし、その瞳はすでに常の色ではなかった。
「わたくしは、殿にしたことを悔いたことはないし、悔いることもない」
メリアンはそう言った。瞬間、瞳に永遠の色が過ぎった。常の色だ。マブルングがいつも王妃の瞳に見ていた色だ。おそらくは、シンゴル王も。
王妃の白い手に、輝く頸飾りが携えられる。中心に填め込まれたフェアノールの大宝玉が、王妃の常の瞳の色と同じ光を放っていると、マブルングは初めて気がついた。
「…………それが恋じゃ」
いっそ陶然とした声と共に、マブルングの手には頸飾りが渡され、はっと上げた視界に、王妃の姿が虹の光にほどけるのが見えた。
マブルングは再び深く頭を垂れる。踵を返す。
背後で、エルウェ、と吐息のような声が言った。マブルングは地下へ向かった。階の一足一足に、あの声が谺するようだった。
エルウェ、エルウェ、エルウェ、――――妃が王にそう呼びかけたことは、かつて一度も無かったのだが。
多彩な光そのもののような頸飾りをマブルングはそっと胸に抱いた。今や去りゆくドリアスの栄華の、最後のよすがとして。