リンドンには型破りな娘がひとりいる。
上級王は、日課の暁時の散歩から戻った時、腕に小さな包みを抱いていた。
この上なく貴重なものを抱く手つきで、しかし微妙としか言い表しようのない表情で、帰ってきた。そしてこれまた毎日きっちりと出迎えてくれる年上の友人にこう言った。
「エレストール。家族が増えた」
成年になりたての、臣下であり守り役でもあるエレストールは、年下の主で友人に率直に聞いた。
「は?」
成年まで40年余りの時を残す少年王は、謎に包まれた出生と明らかに激動の少年期を送ってきたが、彼の父のように自分から波乱を呼び込む性質ではなかった。
どちらかと言えば叔父のように巻き込まれる方だったし、その飛び込んでくるあんまりな波乱の連続にもめげず、地道にこつこつと自分なりの生き方進み方を築いてきたのだった。
今までは。
「妹だ」
言って、微妙な表情のまま見せてきたお包みの中には、はたして、赤子のエルフがすやすやと眠っていた。
「………。」
エレストールは目の前が暗くなったような気がした。
ああ、この友人は母親似なのだと思っていたが(とはいえ、彼の母がどんな人物であるのか誰も知らない)、その考えは改めなくてはならないようだ。
「選りによってそんなところ父君の真似なんかしないでください」
エレイニオン・ギル=ガラドは微妙な表情を不機嫌な表情に変えた。
「父上のは単なる連絡不精だ。私はさっき初めて知ったんだ」
勇敢なるフィンゴンが謎の5年の失踪の後、帰ってきたと思ったら息子連れだったというのは有名な話である。湧いて出た息子本人だってよくそのことは承知している。
「……全く計算が合わない妹御ですね。母君にお会いになられたんですか」
父親の死後100年以上経って生まれる娘がいたらお目にかかりたい。
エレストールが冷たく言うと、エレイニオンはむすっと膨れた。
「会ってない。書置きがあった。母上の常識も規範も私たちとはベツモノだから仕方ない」
「厄介な…」
「私が育てなきゃ死ぬんだ。私の妹だ」
何を言っても聞かないぞと言わんばかりの表情で、噛み付くように言ったエレイニオンに、エレストールはひっそり溜息をついた。
「お好きにどうぞ。あなたが散歩から帰ってきた。赤子を拾ってきた。それ以外私は何も知りません」
そうは言ったがエレストールは、赤子を見てエレイニオンが「父親似だな。苦労するだろうなぁ」と嘆いていたのを知っている。
赤子が長じるにつれその理由がはっきりして、型破りも大概にしろと主の母に言いたくなった。
エレイニオンは型破りは血筋だと苦笑していた。
その血筋に組み込まれれば苦笑で済ませられるのだろうか。
存在自体が型破りすぎる赤毛の娘は、今日も元気にリンドンを闊歩している。