サルゲリオンの平原で

 私にいかにも「こどもとして」の愛情を受けさせてくれたひとは、今思い起こせば不思議なほどこどもを知っていた。
「エレイニオン、友はいるか」
 いる、と答えると彼は少しだけ目を細めた。
「大切にしろ。やり方は君なりで良いんだがな」
 父上は私を口実に遊びすぎだと思う。そういうようなことを言いつのると、彼はくっくと笑った。
「兄上ンところに行くのと、ここじゃ、違うだろうな、そりゃあ」
 彼は「だけど要るんだろうさ、どっちも」と言い、私を抱きしめてごろりと転がった。
「まあ、でも、帰ってくるだろう、あいつ」
 彼は私と話す時、そっと話す。父上に話す時とは全然違う。彼の言う「兄上」……私にも馴染み深いマエズロスと話す時とも違う。
 空がずいぶん青くて、輝くようで、さらさらと風が草を揺らす。すこし冷たい風がさみしいような気がした。
「こどもでいられるうちは、こどもでいろ」
 彼は私の頭をくしゃりと撫でる。
「甘やかしたがる大人がいたら、甘やかされてやれ」
 私は彼の横でころりと転がる。きらきらした草の波の向こうから、父上が駆けてくる気配がする。
「その方がいいな。平和で」
 もう一度転がって、今度は彼に寄り添ってみる。彼は、怒られるぞこれは――と呟いた。