都の建設とテレリ族の迎えのこと

 島はつつがなくアマンへ辿り着いた。
 ペローリ山脈を越え、エルダールはヴァリノールへ迎えいれられ、長く、二つの木に近くあった。やがてノルドール族はヴァリマールの壮麗に心惹かれ、アウレに教えを受けるに至って、自分達の都を得たいと望むようになった。さらに、二つの木の光を見てなお、星々を懐かしむ声は多く、フィンウェは長上王マンウェに願い出てトゥーナの丘を得た。

 ここに築かれたのがティリオン、白い壁と水晶の階を持つ都である。
 ティリオンで最も壮麗な建物は中心にあるフィンウェの館と、イングウェの住まう高い塔、ミンドン・エルダリエーヴァであった。
 ミンドンはちょうど、イングウェの姪インディスの生まれた時に建てられた。アマンで最初に生まれた子である。ミンドンの最高部には銀のランプが置かれ、白い炎が灯された。ミンドンの下の庭園に生い茂る白の木の果実を核とし、葉や枝を糧として燃える炎である。

 ノルドール族は手の技に長け、それを鍛え、喜んだ。
 ヴァンヤール族はそのようなことには全くと言っていいほど向いていないものが多かったが、ノルドールによって生み出された様々なものを誉め、喜び、使うことに関しては抜きん出ていた。そのようにヴァンヤールとノルドールはティリオンで親しく暮らしていた。後に、数多の言語や歌や物語を伝えることとなる館、コールの主2人、ヴァンヤールのエレンミーレとノルドールのルーミルもこの頃知り合ったのである。

 さて、エルダールはアマンの方々へ行ったが、それらは主に都の建設のためであり、世界の探求のためではなかった。
 ひとりエイセルロスは、中つ国でそうだったように、旅と未知なるものを、世界にあらわれるものを愛していたが、かれの心は今、それよりも、テレリ族の運命に向けられていた。かれの言葉も身も重くなり、巧妙に押し隠してはいたが心は暗くなり、鬱々と沈みこんでいた。

 やがてエイセルロスは、カラキリアの光の向かう先、海へと足を運ぶようになった。かつて越えて来た東の大海は今住まう至福の地よりも格段に暗く、空にはかすかなきらめきが認められるだけであった。かれは暗い波涛を見つめ、さらに遠くにもしや薄明の地が見えはせぬかと目を凝らした。
 だが風と波とは穏やかにかすかな光を踊らせ、たゆたうばかりで、かれの目に望むものを映しはしなかった。長いことかれはそうして彼方ばかり見つめていたが、やがて、背後からの光の色がひとつになったのを見て、ようやく振り返り、トゥーナへの長い道を歩きはじめた。

 道の途中でエイセルロスは、前からやってくる2人の人物に気づき、駆け寄った。イングウェとフィンウェであった。
「海へ行っていたのか」イングウェはエイセルロスを見ると言った。「中つ国へ帰りたいか?」
「いいえ」エイセルロスは言った。
「ただ、あいたいのです」
「わたしもエルウェにあいたい」とフィンウェが言った。
「わたしの民にも、テレリ族を恋しがる者は多いのだ。かれらの姿とかれらの歌は、この光の中ではいったいどのようなものとなるのかと。かれらとて一度は旅立った身。同じく光に焦がれる身を、われらは置いてきてしまったのではないか」
「では、ヴァラールに願い出るとしよう」
 イングウェは微笑み、エイセルロスの手をとるとトゥーナへの道を歩きはじめた。
 フィンウェはしばしの間、遠くに光を弾くかのような暗い海を眺めていたが、やがてトゥーナへ歩いていった。