さて、エイセルロスとフィリエルを出会わせたのがフィンウェならば、フィンウェとミーリエルを出会わせたのはエイセルロスであった。かれは方々へ駆けまわっている時にミーリエルと出会った。かの女の銀の髪はエイセルロスにフィリエルのことを思い出させた。その気持ちから、エイセルロスはミーリエルに繁々と会うようになり、かの女のことが親しく付き合いのあるフィンウェに知れるのに、そう時間はかからなかった。
フィンウェとミーリエルがいかにして愛を育んだかはここでは省くが、それは誰の目にも至福の愛に見えた。
しかし時は留まらず流れ、すでに語ったように、ミーリエルはフェアノールを産んだ後、ローリエンへ、そしてマンドスへの道をたどった。フィンウェの嘆きは深く、かれはローリエンへ通い、誰とも会いたがらなかったが、イングウェの使いでやって来たエイセルロスとやがて言葉を交わすようになった。何となれば、アマンで他に誰も知る者がいなくとも、フィンウェだけは、エイセルロスが妻を失った身であることを知っていたからである。
「わたしはそなたに会いたかったのかもしれない」とフィンウェはエイセルロスを迎えて言った。人を遠ざけて、フィンウェはエイセルロスに問うた。寂しくはないか、悲しくはないのか、そして妻と子に会いたいと思ったことはないのか、と。
「思っております、いつの日も」
エイセルロスは答えた。
「わたしはアマンにたどり着き、二つの樹の光を初めて見た時に悟ってしまったのです。わたしはこの至福の地よりも、あの幸薄き中つ国を愛していると。二つの樹の光よりも、あの星明りの薄明と、そこにたゆたう闇を愛していると。それはかの地にフィリエルがいるからでございます。彼女の生んだ、私の子が育つ地であるからでございます。わたしの安らぎと至福はかの地にあり、かの地にしかないのでございます。ゆえに、いつも焦がれております。心は海へ向かい海を越え、あの薄明と闇とにたゆたうのでございます。ローリエンにてもわたしの心は癒されることはありません。欠けてしまった半分を、一体どうして埋めることができましょう。新たに生んだ心も、わたしの半分と共に手の届かない遠くへあるのでございます。どうしてわたしが安らげましょうか。けれど、罪を犯すほどの勇気もなく、罰を恐れる心ゆえにこの地にて生きてゆけるのでございます」
そこでフィンウェは尋ねた。
「そなたは幸福ではなかったというのか」
「はい。そして、いいえ」エイセルロスは言った。
「どうか、誤解なされませぬよう、フィンウェ様。この地に幸福がないわけではございませぬ。この地に生きるエルダールの営みを、わたしは浮き立つ心と共に眺めます。ヴァラールの偉大なる顔を仰ぎ、二つの樹の光の下に憩えることを嬉しく思います。わが君イングウェ様とヴァンヤール、フィンウェ様とノルドール、そしてオルウェ様とリンダールの繁栄を喜びと感じます。わたしは伝令としての仕事が好きです。誰かと会うことで様々な心を知り、様々な考えを感じ、生きていることに喜びを見出すからでございます。ここに、この命を与えられていることを幸いだと思うからでございます。とはいえ、それらは時にわたしに中つ国と妻を思い出させます。その時ばかりはわたしの心は悲嘆に暮れ、二つに裂かれたままであることを苦しむのです」
エイセルロスは息をつき、そして何かに憑かれたかのように続けて言った。
「わたしはまだ、この地で生きてゆけるでしょう。今はまだ。そう、今は。裂かれた心をローリエンの夢幻に慰め、マンドスの深きにある湖を思い、支えとすることができるでしょう。けれど至福の地にあっても、わたしはいつか倦み疲れることになるでしょう。清められた闇を望んで、マンドスの扉をくぐることになるでしょう。ミーリエル様もわたしも同じことでございます。
わたしたちはただ、待つのです。待ち続けるのです。世界の変わる時を。世の終わりの日を。すべてがひとつにして全きものとなる、その時を」
「それが今であったなら」フィンウェは言った。
エイセルロスは悲しげにかぶりを振り、「それは今ではないのです」と言った。
「けれど、悲しさにも寂しさにも目をつぶり、顔をそむける必要はありません。忘れられぬ傷も、結局は愛からおこるのです。ひとつでありすべてである思いから生まれたのです。時が全ての傷をいつかは癒すでしょう。その時まで我らは待つのです。無限の時が、我らに与えられたイルーヴァタールの恩寵なのですから」
それからのことはすでに語った。
フィンウェはその後、一度だけローリエンに行き、その後は夢幻の園に足を踏み入れようとはしなかった。