「ナーモさまのばーか」
「………おい」
「あ、やっと入れましたー」
「そなたなぁ…」
「ワルグチ言ったのは悪いと思ってます。すみません。…でも、私は文句言いに来たんですからね!」
びし!と目の前のヴァラ(とってもかわいらしい少年)に指を突きつけて、エイセルロスは高らかに言った。
ナーモはひょいと肩をすくめると、で?と言った。
「前にマンドスの仕組みを聞いた時にそれってどうなの?って思ったこと何ひとつ改善されてないじゃないですか!あの時ならともかく今、そこら中に突然現れたびっくりするし、その、ましてや、自分を…ええと、殺した相手だったら本当イヤでしょう!」
「……それで、そなた、今まで何をしていた?」
「案内ですよ!名前聞いて希望聞いて説明して、後は、本人のしたいように」
「実はな」
ナーモはいたずらっ子の表情で(といっても、今の外見ではいたずらっ子そのものだったのだが)言った。
「私の裁きの後で、望めば皆、アマンに肉体を持って蘇ることができる――のは知っているな?今までそれを望んだエルフはひとりとしていなかったが」
「はい。……ですから、アマンでの定説は“ナーモさまは仕事をサボるのがお好きだ”と」
「………」
エイセルロスはすみません、とまた謝ると、続けた。
「知っています。蘇りを望まない…または、まだ癒されたとは思えず、蘇りを考えられないエルフたちは“湖の間”で眠るか、ここマンドスで日々の暮らしを送るか…――もういちど死ななくては、ここに戻ることはできないから」
「そうだ。――エルフたちは疑っているのだろう。蘇るということを。誰も、そうしたエルフがいないからだ」
「――ええ」
「それではエイセルロス、薄明を愛する者よ。そしてアマンで死んだ、ただひとりのヴァンヤール。そなたにヴァラールの決定を告げる。
そなたは、アマンとマンドスのふたつに生きる場所を持つがよい。それとも生きている場所と死んでいる場所を、とでも言うべきか。そなたはマンドスにあっては死せるエルフの案内人として、アマンにあっては生けるエルフと死せるエルフの伝令として働くのだ。
――そなたにはノルドールへの恨みはない。何ひとつ。そなたにはノルドールへの、とりわけフェアノールの族への愛がある。消えることなく慈しむ愛が。そしてまたそなたには、テレリへの愛もある。ノルドールへの愛もテレリへの愛も、そなたひとりの心から出て、出会ったすべての者へ向けられる。そなたの目は空をさまよい、そなたの足は地を駆ける。その自由な心をもって、思うことを為すがいい」
エイセルロスは痛みを吐き出すように息をつくと、はっきりと、はい、と答えた。
「さて――、…実は次にここに来るのはおそらくフェアノールなのだが…」
「…えッ!?」
「彼が来る前に館を変えるなら、どうしたらいい?」
「な、そんな…ナーモさまのばか!」
「どうしてそうなるんだ」
「いきなり言われてもわかりませんよ!フィンウェさまと相談してきます!決まったらどうすれば…」
「では変えたい場所に行って、どう変えたいか願いなさい」
「はい?」
「いいから、そうしなさい」
「はぁ。…あ、では、失礼します」