あのひとの濃密で純粋な愛というものは、あのひとの焦がれる彼方へと向けられていて、それがあのひとの手には今、決して入らないものだから、その愛が深い哀しみの核になってあのひとのこころにある。
そしてあのひとは微笑む。
すべてのかなしみを知る女神、ニエンナが微笑むことがあればこうもあろうか?
秘められた哀しみの鋭さと、それによりさらに深く大きくなる愛が、あのひとも知らないあのひとの武器……広く、深く、大きく、豊かな、――そう、だから、だからこそわたしたちは、あのひとに初めての恋をして、同時にその恋が破れたことを知る。
喪ったひとの微笑みはこのようにかなしみを帯びるのだろう
ニエンナの微笑み。
そう、彼はうつくしいのだと唐突に気づく。そして恋をして、その瞬間に失う。