フィンゴン、マエズロスを語る

 ネルヤフィンウェは本当に美しい男だ。

 おれが初めてネルヨを見たのは本当にこどもの頃で、おれがすっ転んだりしていたものだから当然、足元しか見えなくて、だけれども綺麗な足だなと思ったのはしっかり覚えている。そうして、視線を上にあげていったならば、どこもかしこも美しい身体が続いて、最後にやっぱり美しい顔が見えた。

 だから第一印象は「きれいなひと」。

 そしてネルヤフィンウェは本当に有能な男だ。
 あの祖父の孫としても、あの父の息子としても、あの兄弟の長兄としても、我々の中の大人としても。
 何より王家の者として。為政者として。継ぐ者として。
 ネルヤフィンウェはおれにとって、なんでも出来る大人だった。憧れだった。完璧なひとだった。

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 ルサンドルは多分、年相応とか、そういう言葉で表すべきだと思う。

 おれも下に弟妹が出来て、大きくなると、今まで見えなかったものが見えてきた。
 彼はおれよりずっと年上で、自分の弟よりも、おれの父上や叔父上に年が近い。おれには生憎そういうひとはいないけど、ルサンドルはそうでもぴしりと線を引いているのは分かった。私的な場で堅苦しいわけではないけど、父や叔父に対する時、弟のような無邪気な表情をちらりと覗かせながら、それでも最後の礼儀を、尊敬を忘れない。
 だけど本当に私的な、人目のない場所ではもっともっと鮮やかに笑うのも知ってる。

 だから次の印象は「かわいいひと」。

 ……勿論、ルサンドルはいつだって、貴公子の見本みたいな人ではあったけど。

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 マイティモは、おれの恋人。

 ものすごく複雑で、ものすごく自分を大事にしない。
 王家でなければ、長子でなければ、彼は多分ものをつくるひとで、小さな家で静かな穏やかな暮らしをゆるゆると続けることだろう。
 マイティモはものすごく頑固だ。同時にものすごく柔軟だ。彼に合わせることができない人はいない。けれど誰も彼の意志を変えられない。彼はものすごく感情豊かで、でも自分にとてつもなく無関心だ。
 複雑で、ややこしくて、謎だらけだ。
 それをおれは愛している。

 こんなに長く一緒にいるのに、彼はいつもおれを驚かせる。ものすごく欲張りなくせに何もかもを与えてしまう。彼の父が彼を放さない理由がわかる。伯父とおれはきっと似ている。祖父と彼はきっと似ている。

 最後の印象は「おそろしいひと」。

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 憧れが恋と呼ぶものに変わった頃、おれは彼の複雑さも激しさも正しく知っていたわけではなかったけれど、そして一生かけても彼のことはわからないのだろうけど。

 彼は「かなしいひと」。
 それだけおれはわかってる。…それで充分。