毛色の変わった兎が不幸な事故で死んだのは朝のことで、冴えた空気の中でケレゴルムは、ぐんにゃりした毛皮を撫でた後、食べるか、と言った。
ケレゴルムは真正直に狩人であるので、愛でたモノを食すことに何か抵抗のあろうはずもない。
きらめく刃の切っ先をつぷりと腹に突き立てて、柔い毛皮を剥いでいく。銀の糸が引く膜をぬぐって、変わった毛並みがつるりと剥かれる。
ケレゴルムが獲物を捌くのを見るのは好きだ。
わたしも大概楽しそうに作業をするとケレゴルムは言うが、本人は自分の美しい貌に気づいてはいないだろう。
緊張と興奮と、ほんの少しの憂い。
漆黒の瞳に渦を巻く、その虹色の彩を見るのが好きだ。
ナログの流れで皮を洗う。ちりちりと水の音と冷たさが腕を這い上る。
「いい色だな」
そんなことをケレゴルムが言うので、わたしは従弟の頭が水に沈んでいるところを考える。
件の従弟が館で出迎えた時にわたしの腕は勝手に動いて、濡れたままの毛皮を投げつけた。
従弟の間抜けな顔には笑みも浮かぼうものだが、ケレゴルムが鮮やかに笑いだすのでわたしの笑いはしぼんでしまう。
「ほんとに同じ色だったな」
「……そうみたいだね」
濡れた毛皮を頭から引き剥がす従弟の目が妙に慈悲深く感じられて、ぐらぐらと腹で何かが沸きたっている。
香り草を束ねていると、輝かしい従兄が顔を出す。
「クルフィン、大丈夫?」
「何が」
「なんだか泣きそうな顔をしているように思えたから」
「泣くものか」
うん、そうだね、と従兄はわたしの頭を撫でた。弟扱いするんじゃない。
毛皮はみだらがましく広げられて干されていて、ケレゴルムは笑っていて、フィンロドはわたしを甘やかしてきて、オロドレスは兎のシチューを完食した。
わたしは今夜中にあの毛皮を引き裂いてしまうつもりでいる。