ふくふくしたちいさな手を揺籃にかけて、中を覗きこんでいるフィンロドの頭がひょこひょこ揺れている。灯火は真珠の覆いでまろく彩られ、ちょうどあわいの時間のような色合いが部屋を満たしていた。
フィナルフィンが部屋に顔を出したちょうどその時、揺籃から猫のようなふやふやした声があがり、フィンロドが毛を逆立てるような勢いでぴゃっと跳ねた。
振り返り、フィナルフィンを見つけてまたびくっと跳ねる。ふやぁぁあ。揺籃からの声に押されるようにフィンロドが叫ぶ。
「おーろれすがないてるよ!」
うん、とフィナルフィンは頷き、長男のちいさな頭を撫でる。エアルウェンに知らせてくれる?訊くと、フィンロドは何度も頷き、転がるような勢いで駆け出していった。
ははうぇー、はーうぇー!
叫ぶ声が一瞬途切れ、フィナルフィンは耳を澄ます。ややあってまた母を呼ぶ声が聞こえたので、どうやら障りはないらしい。
ほにゃほにゃとよく分からない泣き声になっている次男を抱き上げると、見開いたまんまるな目から涙がころりと転がった。
「おにいちゃんが母上を呼びにいってるよ」
呟き、フィナルフィンは少し困ったように微笑んだ。オロドレスはひとつ瞬きをし、涙をもうひとつぶ落とすと、フィナルフィンの髪をはっしと掴んだ。
「あたた」
言うほどには痛くない。ちいさな頬を指で撫でて、もう泣いていないのに今度は安堵の笑みをこぼす。
「お兄ちゃん、か。私はなったことないからなぁ。なるもんなんだな…」
なんにせよ、うちのこ、いいこ。遠くから愛しい声が近付いてくるのに、フィナルフィンは頷いた。