「謀ったわね、知暁の君」
「聞こえが悪うございますよ、朝の姫宮」
言葉だけ取れば妙に険悪だが、このやりとりがふわふわした笑みを含んだ声だから話は違う。
そう思ってエレストールは振り返った。
さほど遠くない柱の陰で、ガラドリエルはいつ見てもまばゆいような美しさで佇んでいて、相対するギル=ガラドは常になく、やわらかく、……酔っているな、と判断した。
「どうやって言いくるめたのかしら」
「私をワルモノにしたいんですね?」
良いですよ。悪者でも。囁くような笑い声を交えながら続く会話に耳を傾け、ふたりの視線の先を追う。
成程、あれだ。エレストールはやんわりと目を細める。
緩やかに宴は果てて、注視するものもあるわけではない。
夜の縁で交わすささめごと。黒髪と、輝く髪と。――色味は聞こえる会話の主たちと同じだが、関係は同じであるわけもない。
「―――明らかではないですか」
耳を打つ声に振り返る。ギル=ガラドはぐっと声を低めて、ガラドリエルの耳に囁く。いっそ苦しそうな憧憬を滲ませる。
ガラドリエルは軽く目を瞠り、小さく頭を振って微笑んだ。
「あなたがそう言うのなら、そうなのでしょうね」
エレストールは主から目を逸らす。
視線の先で、エルロンドが照れたように俯くのが見えた。彼に向き合って、ケレブリアンが花のこぼれるように笑うのも。
「明らかだ」の意味はよく分かったが、何を言ったのかは主に訊いてみた。
酔っているのだろうと思ったギル=ガラドはぼんやりと視線を宙に据えて、だって、とほんの少し口を尖らせた。
「私には夫婦にしか見えない」
ああ、そう言うのなら、そうなのだろう。