「謝って、ください」
ほとんど触れ合いそうなその距離で、わずか見上げた顔は血の気の失せた白さをしている。
底からぎらつくような沸いた眼。白き峰の裏側、頬の凍るような空気の中で見た星の色。
「――なぜ」
微笑んで見ると、目尻の紅が濃くなり、私の顔の横についた手がぐっと拳になる。背中の壁の冷たさがこの熱で溶けそうだ。
白い都、白い柱の立ち並ぶこの回廊で裾を引いたちいさな手は、今やすっかり大きくなった。薄く軽い身体も厚みを増し、丈高く、濡羽の青を纏った髪は長く、威風堂々たる公子。
見目よりはるかに純なこの異母弟は、現れる感情も変わらずに真直ぐ。熱を持つ。
「怒りは怒りのままに」
震える拳に視線を流し囁くと、砕けそうに噛みしめた唇から一息、熱が吹いた。
「…妬ましいことだ」
おそらく私は微笑んでいるのだろう。嫌悪になりきれない表情を見て、その髪を掴む。
「ッ!」
「もう私が結う必要はあるまいな」
迸る水のように掌からなだれる黒髪は、銀の光が似合うと知っている。その時間には遠い。
引き寄せれば異母弟は光る眼を眇めたが、伝わる熱には困惑の色が乗った。
「そなたは優しいな。優しくて、傲慢だ。昔から」
青を透かし見るように梳けば、ついた拳が解けてわななく指が壁をすべる。何か言いたげにわずか唇が震える。私は指を握りこむ。
「傷だと思うのなら、つけたのはそなただ」
息を飲んだ、隙に力をこめて――反転。白いつめたい柱に背を打ち、顰め伏せた睫毛が、やはりそこもぬれぬれとした青を乗せて上がる。怒りに刷いた目尻の紅が困惑に淡くとける。
なぜ、と雄弁な視線が問うた。
額を合わせれば色味の違う黒髪が覆いかぶさる。青を貫く白。光を吸い込む射干玉の。
そのようにはなれない。なりたくはない。
おそらく思いは同じだろう。
壁に髪を広げるように手をついて、真直ぐな熱を感じた。言葉をわずか待って、しかし金の光の間、ついぞ言葉はどちらからも零れなかった。