私とマンウェの初ちゅーの話をする。
その昔、私とフィンウェとエルウェの3人で、はじめてアマンに来た時の話だ。
ある日、マンウェがいたって無邪気に私に訊いた。
「フィンウェとエルウェは何をしてたの?」
「はあ…?」
結果的に言えば2人がナニをしているところを見たのだったが、当時私はそんなことは思いつかなかった。
「何って、どんなことですか?」
マンウェはえっとね、と言うと私の唇に唇を合わせてきた。
「あだッ」
「ッ!!」
鼻とか歯とかぶつかってめちゃくちゃ痛かった。流血した。
「え、あ」
とおろおろしているマンウェに、私は顔を押さえてモゴモゴしながら言った。
「あー、その、あー、口づけ、かなあ?」
………今思い返すと相当に混乱していた。
血が止まるまで上を向いて考えてみたが、これを口づけとすると、まあエルウェがこんな失敗をするはずがなし(あいつはバカみたいにモテた)、マンウェが良く分かってないのと不器用なのだろう、という結論に達した。なるほど。
そこまで考えた時、血が口の中に逆流してきたので、私は横を向いてちょっと血をペッした。
「!!!」
その途端、マンウェは私に飛びついてきた。
「イングウェ大丈夫っ!?」
「ぐえ」
みしっと骨が軋む音がした。身が出るかと思った。
「ちょ、」
抗議の声を出そうとした瞬間に咳き込んでしまった、のでマンウェがわああああと抱き込む力を強くした。死を覚悟した。
その時ふとひらめいたことがあって、私はすぐ近くにあったマンウェの唇に噛みつくように口づけた。
めちゃくちゃ血の味がした。
マンウェがぴきりと固まって、腕の力が少しゆるんだ。
「……はあッ」
私は唇を離すと共に渾身の力でマンウェを突き飛ばした。
左腕がぶらんぶらんして痛む。
ぽかんと転がるマンウェを見ながら手の甲で唇をぬぐって、私は確信していた。
不器用どころの騒ぎじゃない。早急に躾けないと――死ぬ。
ちなみにエルウェに会ったら「ヒエッ」と変な声を出してひとの顔をまじまじと見てきたので、お前のせいだよ馬鹿野郎と思った。果物を貢いできたので許した。後でフィンウェとのことについてはシメた。