私とマンウェが身体というものを確かめた話をする。
何度かあれこれ傷を負ったりはしたが、お手手つなぐところから抱きしめるところまでなんとか自由自在になった頃のことだ。ああ、途中でおんぶおばけなるものが流行ったりしたが断じて私のせいじゃない。
私が思い描くいちゃいちゃがマンウェと営めるようになった。別にいちゃいちゃするのが目的ではなかったが、きっかけがナニで最終到達点もナニな可能性が高い以上、いちゃいちゃしておくのは重要かと思ったのだ。
行動に出ることを決意したものの、いちゃいちゃ、で、済まないかなーと思わなくもなかった。
フィンウェが目覚めてから(というのが相応しい気がする)、予想はしていたがものすごく忙しくなったので、それを言い訳に少し…だいぶ…かなり…マンウェとその方向の話題をするのを避けていたのは否めない。
正直に言うと怖かった。私は二層目が見えはするが、二層目に在るのかどうかはあやしいところだ。在るのだろうが、自分で知覚し制御できないものを在ると言えるのだろうか。
ぐちゃぐちゃしたことを考えていたら、先に行動に出たのはマンウェだった。
口づけをした。
二度目、どころではないが、マンウェと口づけをした。それはいい。流血の惨事を引き起こさなくなっただなんて、何たる進歩だろうか。
そこまでは良かったのだが、次にマンウェはそれはもうがばーっと私の服をめくった、というか剥いた。
「キャッ」
「なんですか!? 皮剥くみたいにしないでください!」
「え。だめ?」
キャッは私ではない。フィンウェである。エルウェがそそくさと顔を覆ったままの彼を連れて行った。
私もこんなところで押し問答はしたくない。きょとんとしているマンウェの腕をひっつかむと、私はずかずかと宮に入った。後悔するとはもちろん思っていなかった。
「外で、そういうことするのは、ダメです」
噛んで含めるようにはっきり言うと、マンウェは素直に頷いた。
「はい。中ならいいの?」
「中でも、相手がダメだと言ったら、ダメです。無理やりすると嫌われますよ」
「それはやだ」
「……でもいったい、どうしました?」
訊けば、マンウェは私を見つめてきた。青い瞳がいつもより、そう、虹色にぎらつくように思えて、私は背を粟立たせた。
「身体ってものを」
「……、はい」
「よく考えてたら、さわりたくなって」
「は、あ…」
私はすこし身を引いた。マンウェはぐんと身を乗り出してきた。
「ぴったり、くっつきたくなって」
「え、え…」
あれこれやばいやつかもしれない。思わなくはなかったが、何せその頃には私はマンウェの目から目が逸らせなくなっていて、虹色の輝きはそこら中に広がっていて、つまりはきっと二層目の気配というものが膨れ上がっていて。
逃げようとしたのがおそらく私の身体の本能とかいうものであったのだろう。
しかし時すでに遅く、壁際に、ぴたりと、私に上から覆いかぶさるようにして――
――口づけをした。
手が手に、脚が脚に、絡むように唇が唇に、口づけの間にさざめく虹の色はもはや降り注ぐ音になった。
引きずられる。引き込まれる。息が熱くなり、ふれる身体が熱くなる。
マンウェの身体はその時、驚くほどに生身だった。二層目と一層目、心が身体をつないで燃やす。それはクウェンディの理想であるけれど。
ぞっとするほど生々しい顔でマンウェは笑った。混沌とした虹色の渦の中から、青玉の輝きが射るように光る。
「……ねえ、この先は、何をしてたの?」
息を無くすような口づけの最中、熱の塊になったマンウェの身体をまざまざと感じて、私は指のひとつも動かせないまま立ち竦んでいた。
どうしてこういう時にエルウェが通りがかったりしてくれないんだ!?