時を紡ぎ時を織るヴァリエ———織女ヴァイレには懇意にしているエルダールがいる。
針持つ手のミーリエル、ノルドール王后は白い花に似た姿で、岩よりも揺るぎなく砕けない。
彼女たちが共にいる時が、僕には無性におそろしい。
ヴァイレと同じく銀の髪をもつエルダールは、まるで彩りのない姿で、時を織り成すヴァリエと微笑む。彼女たちは灰の帳の中で極彩色の繭を紡ぐように世界をつくる。
普段は主の手足のように糸を紡ぎ機を織るマイアールも、皆その時はただ口をつぐみ、帳を揺らさぬように潜み消える。
糸のふれるような声で話す彼女たち。
極彩色の世界に銀の霞むとばりをかける、それはかつてあったことの筈だった。
けれど今宵、銀の光の遠くに藍色の夜を呑むこの刻に、僕は銀色の影をみる。
ささめく声は細やかに、糸の一本に至るまで鮮やかなその色彩に銀をまぶす。
まるで無彩の彼女たちが、目のくらむほどの彩りを過去に冷やし、銀に紡ぐ。
僕は声の出し方を忘れ果てる。
伝令使にあるまじき失態をも銀が埋める。ヴァイレの瞳は時を練ったように輝いている。
やがて、銀の髪をゆらし、エルダールが振り返る。振り返る、僕を見る。その黒の淵の瞳!
彼女が僕を見るや極彩は溢れ、暴れ、渦を巻いて僕に襲いかかる。僕はとにかくそこを逃げ出す。
そんな極彩の渦に呑まれてなお、僕の心に広がり残るのは、鮮やかな暗い夜空———満天の星空だ。
おそろしい幻は金の光に消え失せ、ヴァイレはまたひとり糸を紡ぎ機を織る。次に灰の帳をくぐり僕が訪れる時には、ノルドール王后の銀の髪も漆黒の瞳も、見ることはないだろう。
織女のひめごとを僕は明かせない。霊魂の館に嘘はない。
“ミーリエルはわたくしと共におります”
運命の銀の影はそう云った。
ああ、僕はこんな星の刻にもう二度と伝令になど来るものか。