与太話・フィンウェの息子夫婦たち

 フィンウェの息子たちが3人揃ってテラスにいるので、少し離れたベンチにその妻たちも3人で腰掛けていた。

 夫たちは6人座れるベンチ、テーブルと一体型のものに腰掛けているのだが、何故だか3人揃って同じ方を向いていた。きゅうきゅうに詰まって片側に腰掛けているものだから、エアルウェンは紅茶味の氷菓を食べる手を止めて、目をまんまるくしてその様子を見つめている。
「何やってるのかしら、あのひとたち」
 苦いお茶の氷菓をぱくり食わえてアナイレがぼやく。
「あら仲好しじゃないの?」
 真っ白乳氷菓を舐めてネアダネルが答える。そこでやっとエアルウェンがぱちぱちと瞬いて言う。
「ぎゅうっぎゅうね…」
 アナイレもネアダネルもちらっと夫たちを見て、小さく吹き出す。体格の良いのが3人も揃ってぎゅうぎゅうと並んでいる姿はなんだか可愛らしい。
「誰かお向かいに座れば良いと思わない?」
 アナイレが言うと、エアルウェンとネアダネルがふふふと笑っておもむろに真似をした。
「『あにうえが怖い顔する……』?」
「『お前の不幸な顔はもう少し何とかならぬのか』?」
「殿、そんなに不幸な顔してるかしら…」
 ちょっと下がり眉かもしれないけど。でもほんのちょっとだけなのに…アナイレがぼやく。
「ちょっかいよ。言いがかりでも良いけど」
 でもあのひと絶対お向かいには行かないわね。ネアダネルは夫たちを眺めて微笑む。
「でも、どうして――」
 と、そこで夫たちに騒ぎが起きる。地震じゃないかとかそんなバカなあっまた揺れた!騒がしいが、妻たちから見れば何のことはない。座っていない方のベンチの足が浮いている。
「………ほんとに何やってるのかしら、あのひとたち」
 エアルウェンが呆れて呟くと、ぎゅうぎゅうしたベンチからフィンゴルフィンが立ち上がる。
「やっぱり殿がお向かいに行くのね…」
 アナイレはまた氷菓を舐め、しかし向かいに回り込んだままフィンゴルフィンがこちらを見るので首をかしげた。
 するとフィナルフィンもこちらを見て言う。
「こっちに来ない――」
「きゃっ」
 の?と続けたかったのだろうが、その瞬間ネアダネルが氷菓を取り落とす。

 きゃあきゃあと笑い声を上げている妻たちをぽかんとフィンゴルフィンとフィナルフィンは見つめた。
 氷菓の残骸を拾い集めたネアダネルの手からそれを取り上げ、ばかりかしれっと別の氷菓を差し出しているのはフェアノールだ。
「あにうえ、いつの間に…」
「全然見ていなかった筈なのに……」
 それどころか叫び声が上がるまで全く我関せずといった風に座っていた。
「精進せねば」
「えっ」
 真面目に頷いたすぐ上の兄を見て、フィナルフィンはちょっと引いた。いろいろと不器用なフィンゴルフィンにそんな芸当が出来るとは思えない。
「兄上、愛情表現はひとそれぞれだと思わない…?」
 呼びかけたがまったく耳には入っていないだろう。いいなー妻を抱きしめたいなーみたいな顔をしていたからだ。
 フィナルフィンはエアルウェンにへらりと笑いかけると、ねえこっちに来て座らない?とさっき言えなかった言葉を投げた。