太陽というのは船で、月というのは島なのだよと教えられてはいたが、実際見てみると本当に船で島だった。というのがエアレンディルの第一に思ったことである。
かく言う自分も星で、船なわけである。
西の涯へ近づく太陽の船は白とか金とかあまりにまばゆい光に満ちている。きっと目を灼くような輝きだろうと思ったのだが、エアレンディルの目は霞をかけたのか、その船をまっすぐに見せた。
溶けるような白の中から船の帆と、帆柱と、すべるような背骨が腹を伴い、その舳先を飛び立つように空を踏んで。
きらめく炎の塊が不意に霧のように弾け、彼女が現れる。雪のような銀の髪には無彩のヴェール、太陽のまばゆさは瞳に閉じ込められて、ほっそりとした少女がそこにいる。
「アリエン?」
エアレンディルは自分で思ったよりも気軽に呼んだ。彼女はかけようとしたヴェールをふわり、のけて、その太陽の瞳ではっきりとエアレンディルを見た。
「エアレンディルね」
月の島は西の涯で待っていても会えるとは限らない。飛び立つ前に見たとして、銀を愛する狩人がいない時は雲の塊のように朧に佇んでいる島を、本当に月の島を見たと言えるのかは疑わしい。
歌うのだ、島は。
西に戻る月の島を、少し先んじて迎えたことがある。ヴィンギロトから降りる前、振り返った島は銀のさざなみ、ざわめいていて、そこに立つ狩人は夢の中にいるかのようにぼんやりと揺れていた。島をくるむ光の粒が同じく揺れて、ゆれる光が音の雫を散らした。
「……ティリオン!」
衝突するように思えて呼ぶと、は、と顔を上げた青年は、酩酊の夜の残る顔で笑う。
「エアレンディル」
太陽の船にアリエンが乗り込み、彼女の身体が光にほどけて隅から隅まで船を満たすのも、月の島にティリオンが飛び込んで、彼の駆ける音を支えて島のかたちが歌うのも、エアレンディルは不思議には思うのだ。
とはいえ、自分も空を漕いでゆく。不思議のひとつだ。
星であるとは言われたが、エアレンディルは自分が星である姿は見たことがない。
正直よく分からないと言うと、それはそうねとアリエンは笑ったし、ぼくも分からないなとティリオンは真面目な顔して頷いた。
アリエンは「太陽」を見たことがない。ティリオンは「月」を見たことがない。
エアレンディルは額に掲げる宝玉の色を知らない。
エアレンディルは太陽の船とその導き手を、月の島とその舵取りをとても慕わしく思っている。船と彼女を、島と彼をよく眺めているのは、慕わしさと共に、同じお役目の拠りどころをどこかで求めているからだと思う。
そして船と彼女、島と彼の美しさを、誇らしく感じている。
あの時、分からない分からないと言い合って、それから、でもね、と太陽も月も続けて言ったのだ。
エアレンディルであるその「星」は。
「月と同じくらい美しいわ」
「太陽と同じくらい輝いてるよ」
同じ空を征くのに、その言祝ぎはとても頼もしい。