大きな白紙を床にしゅっと広げて、マハタンは木炭をすべらせる。
 紙を動かさないで自分があちらこちらに動くものだから、ころころ転がるようにも見える。
「札遊びをしたでしょう。この前ですよ」
 手は止めずにそんな声を投げてよこす。
 連想遊びのようなものだ、札遊びは。単語の書かれた札を並べ、囲んで座って、読み手が幾つかの単語を言う。読まれた単語に共通するものを並べた札から探し当て、先に取った者の勝ち。
「マンウェ様が混ざりたがったからイングウェ様も来ていて。なんだかきらきらしてたんだ、金髪揃いで…。フィンロド殿もいたし。で、フロド殿のすこし後ろでビルボ殿がにこにこしてて。バギンズ殿たちのために西方語の札、あれそのまま差し上げたから――また遊んでるかもしれない。
 札遊びって読み手の裁量で正解が決まることがあるじゃないですか。それであなたがちょっと抜けたから、俺が読み手をしてた、その時ですよ。
 読み手の俺が心に決めてた正解の札、それがマンウェ様の眼の前にあったんです。あ、って思ったからかほらマンウェ様にバレてて。どうしようかなって思いながら言いました。ブルー、ミスティ、ロンリー…
 そうしたら、そこまでにこにこして見てるだけだったビルボ殿が、はい、って静かに言って札を取りました。
 『ドワーフ』を。
 たぶんそこでビルボ殿が取らなかったら、俺は続けてたはずなんです。レッド、イエロー……でもそこまで言ってもきっとそっちが正解になる。『ドワーフ』が。しかも俺はいつつめ以降、何も思い出せなかった。頭まっしろでしたよ。だからそれは、その回はそれで正解になったんです。『ドワーフ』が」
 マハタンは、這うようにずりずりと移動しながら続けた。描く手も相変わらず止めはしない。
「ミスティとブルーは、俺も通った筈だけど覚えてないし。シャドウ、エコー、テラーとアイアン。そっちの方が話だって良く聞いた。ホワイト、グレイ、そこがどうしても出てこなかったのは…、やっぱりビルボ殿がいたからかな。
 でね、だからその後にビルボ殿に聞きましたよ。「ロンリー」のこと。
 ブルーから、ミスティを越えて、ロンリーへ。もう一度、はじめて、聞きましたよ」
 マハタンはほうっと息をつくと、腕を突いて起き上がった。紙上に広がったのは堂々と聳えるエレボール、その壮麗たる門。
「ねえ、どうです? 俺の想像力も捨てたもんじゃないでしょう。いや、ビルボ殿の描写力が素晴らしいのかな。あなたの眼から見てどうです? ……行ってないのは分かってますよ。でもあなたは子らの仕事を良く知ってるじゃないですか。
 今度聞きたいですね。あなたのブルー、ミスティ、ロンリー、それともレッド? 俺の知らないイエロー? まずはペローリのことを聞くべき?」
 しゅっと紙が翻り、白に巻き取られていく。マハタンは巻いた紙をとんとんと揃えると、楽し気に微笑んだ。
「聞かせてくださいね。『アウレの木』の話」