上のエルフの王たちの

 とても単純な感想で、まぶしいな、と思った。

 エレイニオンの眼は少しばかり見えるものが多いものだから、その実なにか違うものを見て感じ取っていた可能性も無くはない。だが時経てそのことを思い出すにつけ、大体エレイニオンは言葉に迷い、最後には「まぶしかった」と一言だけ述べるのだ。

 その時エレイニオンの見目は少年だった。骨もほそく肉もうすく、しかし武具に身を固め、しかもとうの昔に即位した上級王だった。バラール島に西からの船が着いたと、そう報せを受けて文字通り駆けつけた。

 岸辺で。月明りの下で。

 上のエルフの王たちにあった。

 父も確かに上のエルフで、王であったのに、何故こうも目のくらむように感じるのだろう。エレイニオンは思いを漂わせてみる。何故?むずかしく言わないなら、きらきらしてるから?何が。髪が。上のエルフの…
「親玉?」
 いっそあどけないような声で訊き返したのが彼だった。彼、フィナルフィン、一行の中で唯一帯剣していた。
 あ、エレイニオンは小さく声を挙げて、慌てて謝罪した。益体もない思いが口から洩れていたのだろう。
 しかし一行は笑うでもなく続けるのだ。
「上のエルフの親玉なら、私ではなくこの方だな」
「そうだな。わたしもイングウェ殿もこちらの……湖の生まれだからな」
 左右の年長者に次々と続けられて、彼は歳下らしくふくれた。
「待って、どうしてそうなるんですか。護衛に何を求めてるんですかイングウェさまも義父上も」
「救護班に他の何かを求めないでくれ」
「輸送班にもね」
「もう。ああ言えばこう言う…」
 やわらかなじゃれ合いを聞きながら、やはりエレイニオンの思いは羽ばたくように逸れていった。湖の。それは遠い湖の。あの星明りと水面の光を確かに彼らは持っている。だからこんなにまぶしいのは、やはり。
「親玉なんですね、大叔父上」
 エレイニオンの呟きに、フィナルフィンは勢いよく振り返った。それすら眩しく感じる淡い紫の瞳が、エレイニオンの眼をはっきりととらえ、それからニィ、と片目をつぶる。
「じーさまでいいよ、エレイニオン」
 エレイニオンはちょっと目を細めて、その圧倒的なほどの何かを確かに受け止めたのだった。