叱られるのを待つこどものような顔をしている、とマハタンは思った。
しかも、あまり反省していない。自分が愛されているのを、よく分かっているからだ。
俺はあなたの何なんですかお知恵さん、と深い溜息をつく。目の前のフィンウェの口が、笑いをこらえられないようにちょっと歪んだ。
出会いは思いだせない位ずーっと昔、とはフィンウェの言で、たしかに昔ではあるのだが、マハタンはしっかりはっきり出会いを覚えている。たぶん、言いつつもフィンウェだって忘れていない。忘れられるはずがない。
マハタンは、フィンウェが忘れていればいいのに、と思ったりもする。
時の終わりまで抱えて行く秘密を、その時マハタンは持った。
フィンウェが甘えるのはそのせいだろうか。
甘えるのはいい。甘やかすのも悪くはない。ただ時折、これで役に立てているのだろうかと、少しもやのような不安が立ち込める。
ひとしきり叱って、やはり何だか嬉しそうなフィンウェに少し呆れて、きっと無理だろうと思いつつマハタンはぼやく。
「毎度毎度、叱られないで下さいよ。俺なんかに」
はは!とフィンウェが笑う。
「君だから叱ってもらってるのに」
「俺が間違ってたらどうするんです」
「それは私が聞きたいね」
ぱちり、冴えた星の色をした瞳が瞬く。
「私が間違えたらどうするの、ノルドール?」
言葉につまったマハタンにひょいと抱きついて。フィンウェは歌うように告げた。
「君が間違えたら私が言うし、私が間違えたら君が正す。ふたりとも間違えたらきっと誰も気づかない」
「……責任重大ですね」
絞り出したような声に、フィンウェはすっとマハタンから身を離す。そして蠱惑的としか言い様のない笑みを浮かべる。
「君が叱ってくれてるうちはまだ私、大丈夫だなーって思ってるよ」
「………それは、それは」
楽しそうな顔を軽くいなして、マハタンはふうっと息をつく。
甘えるのはいい。甘やかすのも悪くはない。
そしてそれでフィンウェが満足しているのなら、自分の不安など大したことはない気がした。