「びっくりするほど海が似合いませんのね」
「………ねぇ?」
ひたひたと足を濡らす波打ち際で、所在無く佇むフィンウェは、所在無いなりに海を楽しんでいるようだった。けれど似合わないと感じるのも事実で、エアルウェンは目の前の義父と、頭の中の夫を比較する。
「海は一番、馴染みがないな…」
そんなことを言いながら、フィンウェはぽいと沓を放り投げた。裾を持ち上げる仕草がどうにも少女めいていて、エアルウェンはくすっと笑った。
「義父さまとわたくし、格好が反対の方が良かったみたい」
真珠の都の白鳥の姫が男装を好むのは周知の事実で、今日のエアルウェンも動きやすい男の拵えをしている。
「変かな?」
裾を持ち上げて波をかきわけて歩き、フィンウェは振り返った。
「いいえ」
今日は海に入る気にはならなかった。砂浜を歩きたいとは思ったけれど。
「変だったとしても、誰も怒りませんわ」
「…休暇だからね」
フィンウェは海を振り向いた。穏やかに、波を映してその眸が細まった。