開いた視界にまばゆい黄金色の髪が入ってきて、フィンウェはゆっくり目を細めた。右手を少し動かしてくるくる、と指先で髪を巻いてみる。軽く引くとするするとほどける。起き上がりたくないような心地の良いけだるさに包まれて、フィンウェは何度かその動作を繰り返した。相手がころりと向きを変えて、半分閉じた紫の瞳がフィンウェを見る。深い色が細まる。ああ、笑ってる。思って、とても安心した気持ちで目を閉じた。
「うそ…」
閉じたと思いきやフィンウェは目を見開いて飛び起きた。くい、と髪が引かれて半身を起こした程度で身体が止まる。
「何が嘘だ?」
身体の下にフィンウェの黒髪を敷いてしまっている友人が尋ねる。
「そんな、……休暇だからってちょっと待って私ってばすっごい欲望に忠実じゃ…!?」
「それくらいで丁度良いだろう」
白い手が伸びてきてフィンウェの髪を辿る。頭を撫ぜて、友人は微笑む。
「全く、本当に貴方は働きすぎだ」
「…イングウェ~…」
フィンウェは物凄く気まずい気分で友人を見返した。
「今に始まったことでなし。ん?何ならそういう会話でもするか、久しぶりに」
「…………その久しぶりにトゲがあるよ…」
ぶう、と膨れてフィンウェは寝台に倒れこんだ。
「なーに。どんな会話」
「いや、実際貴方はよくまぁあんなに子どもつくれたな、と」
イングウェはさらっと言った。
フィンウェは僅かに顔を赤くして、頭を抱えた。
「………が、……頑張ったんだ、よ」
「だろうな。しかし、それともその…」
歯切れの悪くなった言葉に、フィンウェはいぶかしげに顔を上げた。
「アレか、貴方は一発必中だったか」
フィンウェはばふっ!と音をたてて枕に顔を埋めた。
「…フィンウェ?」
「ああもう、時々ヴァンヤついてけない…」
「その言葉、そっくりそのまま返していいか」
「んーそうだよねノルドもワケ分かんないよね自覚はあるようんあるよ、……うん、そう、多分、そう、そうなんじゃない…」
確かに、久しぶりだ。フィンウェは笑った。笑いすぎて涙が出てくるまで笑い転げた。イングウェがものすごく真面目な顔で延々とその手の話題を続けて、ますますフィンウェを笑わせた。
その日、部屋の扉はなかなか開かなかった。