「私を乗せてくれる仔、誰かいない?」
厩、というには開かれた平原で馬に呼びかけたら、あちこちからあっという間に馬が殺到した。フィンウェは悲鳴交じりの笑い声を上げて、叫んだ。
「じゃ、じゃあローメンディルと伍せる仔は!?」
途端にさーっと潮の引くように馬たちが離れて行き、その円の真ん中でフィンウェはまた大っぴらに笑った。
「冗談だよ!……ええと、じゃあ、オロメさまの森に行き慣れてる仔は?」
「この仔が良いわ」
言葉の返事に驚いて、フィンウェは声の方へ向いた。
「ヴァーナさま」
常若のヴァラの周囲にはいつも花が咲き乱れている。ヴァーナの触れている栗毛の馬は優雅に首を下ろすと、その足元の花をむしゃむしゃと食べた。ヴァーナは笑ってその隣の花を摘むと、ふわりと近づいてフィンウェの髪にそれを飾った。
「あの…?」
「休暇だから、オロメの所へ行くのでしょう?わたくしの伝言を届けてくださいな」
言いながらヴァーナはちょいと花の向きを直して、まぁ可愛い、と笑った。