「うわ!熱烈な歓迎!」
フアンが駆け出したと思ったら、そちらから声が聞こえて、ケレゴルムと赤毛の双子の片割れは顔を見合わせた。
「はは、フアン、くすぐったい、ちょっと、君のご主人はどこ?」
馬を進めれば声の主はすぐに知れた。綺麗にまとまった髪に幾つもの花を絡めて、屈託なく笑っていた。孫ふたりが近づくと、フィンウェは顔を上げて、きょとんとした。
「あれ?今日はケレゴルムはアムロドと一緒だって聞いたんだけど」
ケレゴルムは面食らって目を瞬いた。フィンウェはフアンを撫ぜると屈めていた身を起こした。
「どうしたの、アムラス?」
「…おじいさま、これはアムロドで」
言いかけた言葉は当の弟に遮られた。
「どうして分かったのおじいさま…」
「どうしてって」
フィンウェはケレゴルムと同じくらい疑問符を浮かべた表情をした。
「…あれ、…え、っと、カン?何か良く分かんないや。でも、アムラスだよね?」
確認の言葉に双子の片割れはこっくり頷いた。
「そうです」
「えっ…」
ケレゴルムは目を剥いて絶句した。愕然と弟を見た。アムラスは少し身を縮めて、ごめん兄様、と言った。何度か口を開け閉めして、抗議の言葉を吐いてやろうとした時、ふかい声が森を静かに震わせた。
「本当に休暇だな、フィンウェ」
フィンウェは花がほころぶように微笑んだ。
「オロメさま」
「普段のそなたなら言わぬことよ。双子には双子の理由がある」
「あー、ああ、そうか。そうですね。でもオロメさま、それこそ休暇ですから」
「孫の取り違えは困るね?」
「そういうことです。…んん、カンって凄いなぁ」
「それはカンと言うかな。カンか。……カンで済ますにはどうもそなたはなぁ…」
オロメの言葉にむぅ、と口をとがらすと、フィンウェは髪に手をやり、花を1輪抜いた。
「オロメさまにご伝言ですよ。実際どれだか分かりませんけど」
言いながら立て続けに更に数本抜くと、小さくまとめる。それでもまだフィンウェの髪を飾る花は多い。いや、むしろ増えたようにも見えた。オロメがにやりと笑った。
「ヴァーナのか?」
「ええ」
「そのままの方が可愛いな」
「可愛くなくて良いです」
また片手で抜き取って束を増やすと、フィンウェはすい、と花束を差し出した。花に絡んだ黒髪が滑り落ちた。唇が誘惑するように弧を描いた。