マンウェの笑顔が嫌いだ。
あれは、本当は広大なのに、それを押しこめて「表情」をつくる。
アイヌアには「マンウェ」であるからだ。善なる者――だからあの顔は嫌いだ。
だが泣き顔はもっと嫌いだ。
そら涙の輝きを、うつろな表し方を、美しいとは思わない。
かつて遠い記憶の彼方で、その歌をうたう前に感じていた混沌を、おそらくあれは忘れてしまったのだろう。
あれは、美しかった。
我はそれを覚えている。
ニエンナはかつて見たことがある情景を、大事に心に抱いている。
まるでうつろな、そのくせ満ち足りた表情をして、マンウェが座っている。座っているように思った。そのほんとうに近くに、まるで寄り添うように、メルコールが寝転んでいる。目を閉じていた気がする。
マンウェは確か歌っていた。そのうちメルコールがふと目を開けて、すこしだけ、微笑んだ。
どんな光だったかは覚えていない。
木の下だったような気もする。
まったき幸福のようで、ニエンナはとてもうれしかったのだ。
メルコールがわからない。
そうやってわたしが言うとニエンナは、微笑むように涙を流す。
その涙を見ていると、何かを忘れているような気がしてくる。
光に目が眩んだように、歌に耳を塞がれたように、触れたものはすべて幻のように。
このうつろが「悲しく」はないわたしは。
ねえニエンナ、わたしは何を忘れてしまったのだろう。