永遠の味

「言うなればそなたは魅力的な謎だ」
 囁くと、青白く血の透ける瞼がゆるゆると持ちあがった。エルウェの記憶にある限りでは、いつもならば、芯に混沌を渦巻かせる冴えた灰色が、光を映して燦然ときらめくものだった。――今は、フィンウェの瞳は光を映さない。だがそうして焦点を結ばなくなった目は、以前よりいっそう不思議な輝きを帯びている。
 見えていないのをいいことに、エルウェは何度か彼の瞳を舐めた。永遠の味というものが、もしやしないかと思ったのだ。
「謎…?」
 左の半身を重たく放りだして、フィンウェが掠れた声で呟いた。しばらくは指1本とて動かすのが苦痛だと言わんばかりのその風情は、エルウェの記憶をはっきりと呼び起こした。幾重にも巻かれた布こそないものの。傷から溢れた血も、無残に引きちぎれた髪もないものの。

「よんだでしょ。だから、きたよ」
 エルウェは無残に引きちぎれた髪をそっと撫でた。風の囁くような声が、静かに耳に触れた。
「………いてくれる…?」
「いるよ」
 エルウェは生真面目な声で、白く愛おしい、儚げなものに言った。
「ずっといるのはできなくても、よんだらくるよ」

「永遠不滅のものなど、そなたにあうまで知らなかった」
 石で出来ているようにごとりとした左腕に口づけながらエルウェは言った。
「――永遠、不滅のものなんて、あるのかな」
「そなたは大いに変容するが、永遠不滅にとかく魅力的な謎だ」
「エ、ルウェ――」
 フィンウェは何か言いたげに唇を開いた――が、ひとつ、大きく息をつくだけだった。
 滴った涙をエルウェは舐めた。永遠の味がしたと言えるだろう。