りぃん、と澄んだ音が鳴った。
鳴弦とはとても思えないほど澄んだ音だった。フィンウェは今でも覚えている。
りぃん、るん、りぃん。むしろ音楽のように見事に奏でたものだった。
「――で?何を狙ってるのだ」
並んで見ていたのに、そう声を上げたのはエルウェだった。りん!澄んだ音をさせて矢は飛び――ぼと、と落ちた。
「…的だな」
「当たらぬな」
「だから練習してるのだろう」
むっつりと言い、イングウェはまた矢を番え、弓を引いた。りぃん!軽やかに、楽しげに鳴った音とは裏腹に、やはり矢はぼとりと落ちた。
「矢の無駄だ」
りぃん!ぼと。
構えも悪くないし、引く力も申し分なくフィンウェには見えた。
何よりも、その弓弦の音といったら、うっとりするほど美しいのだ。
「当たらねば意味がないだろう」
エルウェは手近の矢を拾い上げると、イングウェの手から弓を奪い取った。キリ、と弦のしなる音。
びぃん!
空気を切り裂く鈍い音と共に、だん!と的の中心に矢が突き刺さる。
「どうだ?」
得意げに振り返ったエルウェの目の前で、手に持った矢をくり、と捻って、イングウェは的に刺さった矢を見た。
それからフィンウェを見た。フィンウェは微笑んだ。
しゅ、と空気を裂く音がした。ぎょっとしたエルウェの目の前を矢は真っ直ぐに飛び――
的の真ん中に刺さった矢を裂いて的に突き刺さった。
「なっ…」
口を開けたエルウェの前で、イングウェは散らばった矢をわさわさと拾うと、1本を握りしめて、きっ!とエルウェを睨んだ。
「当たればいいのだろう、当たれば!」
だん!もう1本の矢が的に突き刺さる。だん!だん!だん!物凄い勢いで、正確無比に矢が的に突き立っていく。
「そなたなあ!矢は矢であって槍ではないわ!」
弓よりよほど強い腕で矢を投げたイングウェは、抗議したエルウェにふん、と笑った。
「当たれば意味があるのだろう?」