何とはなしに草原へ――いや、花畑と言えばしっくりくるのだろうか、フェアノールはそこへ出かけてみた。
木陰に不思議な色合いの金髪のエルフがいる。
彼はこどものエルフたちを相手に、なにやら熱心に話しているようだった。彼をとりまくエルフには黒髪が多い。時折、濃い灰色の髪が混じり、そして奇妙なことに(と言わざるを得まい)、金髪はたったのふたりしかいない。
ちょうど話が区切りのいいところであったらしく、彼はふと目線を上げてフェアノールに気づくと、にこりと微笑み、続きはまた今度、と言って話すのをやめた。
立ち上がり、ばらばらと離れていくこどもたちを笑みをたたえて眺め、くるりとフェアノールの方を向き、さりげなくしかしきっぱりと礼を取った。
「こんにちは、クルフィンウェさま」
言った瞬間ふたりの間を黄色い蝶がひらりとかすめ、彼は、あ、と声をあげてそれを見やる。
「……どうかしたのか」
「いえ、ここで黄色い蝶は珍しいので」
どこから来たのかなぁ、と呟く彼に近づいて、フェアノールは強引に座らせた。自分も一緒に座る。彼はまた微笑んで、尋ねた。
「どうしました?」
「眠い」
「はぁ」
「膝を貸せ」
「えーと、膝でも肩でもお貸ししますが、もうすぐカナフィンウェさまがおいでになるので、少しまた騒がしくなりますが」
「構わぬ。そなたの声は心地よい」
言うと、フェアノールはごろりと身を伸ばし、彼の膝に頭を預ける。
「……先ほどは何を話していたのだ」
「さっきですか?世界のはじまりについて、少し」
「またカタい話を」
「そうでもありませんよ。聞きます?」
「マグロールにもその話か」
「あー、いや、どの話になるかはわかりませんが、お話する予定なのは確かです」
「そなたの恋の話でもしたらどうだ。あれは恋を知らぬ。理屈で恋の歌を作ろうとする」
「理屈でも良いと思いますけどね。エレンミーレなんか完全に理屈で歌を作っていますし」
「あやつはあやつ、あれはあれだ。あれはあのままでは伸びぬ」
「ご自分で言っておあげなさい、クルフィンウェさま。全く不器用なんだから」
「誰が不器用だと…」
「そりゃあなたです」
彼はフェアノールの顔を覗き込んでまたにこりと笑い、訊いた。
「寝物語が必要ですか?」