アウレ

アウレはある日、火を熾すために木を手にとり、見つめて、ヤヴァンナのことを思った。
それからアウレは立ち上がり、鍛冶場を出て、大地を歩んでヤヴァンナのもとへ行った。

彼女は忙しくしていて(それはいつものことなのだが)アウレを見るとしかめっ面をした。
そこまで来て、そういえばちょっと前に盛大なケンカをしたとアウレは思い出した。

「あたし今、かなり忙しいのですけれど、何かしら?」

ヤヴァンナは小さな木々に触れる手を止めずに、それでも尋ねた。

「ええと」

アウレは口ごもった。
けれど、ヤヴァンナが手を動かしてはいてもちゃんと言葉を聞いてくれていることは知っていたので、とにかく言ってしまおうと思った。

「私はお前が好きなんだと思ったから、言いに来た」

アウレの視線の先で、ヤヴァンナは葉と紛れる緑の髪を片手で押さえた。
アウレは続けた。

「私は大地を造ったが、大地の生命は思わなかった。お前が造った生え育つものの基盤となったのが嬉しかった。
そして私はお前の心にかける生え育つものを使って、また別の物を造ることができる。それがすごく楽しい。
だけどこれにはすごく大事な前提があって、そうじゃないと困るんだ」

ヤヴァンナはもう片方の手をあげた。
耳を塞いでいるのじゃないことはわかったから、アウレは続けた。

「ヤヴァンナ。いてくれ。アルダに。ここに。お前らしくいてくれ。
どんな時だって、私にはあなたが必要だから」

アウレは視線を大地に落とした。
柔らかい緑が目に入った。
言うべきことは言った、とアウレは思った。

「邪魔してごめん。じゃあ」

去る背中に、白い花びらがざあ、と舞った。