聖らな館を訪なうは

 それはいつもの日常風景。王宮のテラスに陣取って、勉強からちょいと逸れれば遊びになる。アナイレは先ほどからぼんやり下の庭園を眺めているし、マエズロスは色々書き散らした紙を山に折ったり谷に折ったりして、気がつけば見事な紙細工を仕上げている。折っただけでそんな形に出来るのが、フィナルフィンには不思議でならない。
「夢の上ほんとに器用だよね。血かな」
 折って、裏返してまた折って。最も簡略化された鳥の形を作りながら、マエズロスは少し笑った。あいにく父はその溢れかえる才能を、ここまで無意味なことには使わない。
「……や、これってハッキリいって「小器用」レベルだと思うんだよね僕としては」
「でもなー私には絶対できないしー」
「単に天の下が不器用なだけじゃないの」
 出来上がった“鳥さん”を、マエズロスはまっすぐに腕を伸ばして投げた。深い意味はない。ただなんとなく、綺麗な空にそのまますべるように飛んでいく気がしたからだった。“鳥さん”は呆れるほど見事に滑空し、テラスから庭へと――
 こつん。
「げ!」
 “鳥さん”の行方を目で追って、素直な感想をマエズロスは洩らした。
「わ、見事に直撃だね」
「げぇー、なんで叔父上よけないかなぁ」
「振り返り様にあんなもの飛んでくるなんて普通予想しないでしょ」
 何の気なしに振り返った、その額に、それなりに尖った先端をこつんとぶつけられて、フィンゴルフィンは蹲っていた。ただ庭園を歩いていただけなのに、なかなか痛い思いをすることになろうとは、当たり前だが予想しているはずもない。
 わけがわからない、といった表情で、“鳥さん”を眺めているフィンゴルフィンから目を逸らし、卓の上を見てフィナルフィンは首をかしげた。
「…あれ、夢の上、何飛ばしたの」
「ははは。女性陣のあだ名一覧」
 フィナルフィンは目を見開いた。マエズロスが乾いた笑いをたてる。
「それ…、すっごいマズくない?」
「マズいかも」
「取り返して来なよっ」
「叔父上にどう説明すればいいんだよっ」
「だいじょうぶまだ兄上開いてないっていうか多分開く気もない折り方知らないだろうし!」
 どんっとフィナルフィンはマエズロスを突き飛ばした。
「いや最近父上とみに叔父上避けてるからなんていうか僕まで近寄りにくいっていうか!弟行ってくれ!」
 どどんっと突き飛ばし返すマエズロス。口と同時に手も出る、これもまた日常である。
「じゃ、あたくしが行ってくるわ」
 男の子諸君は動きを止めた。
「「…え?」」

+++   +++   +++   +++   +++

「フィンゴルフィンおにいさま」
 額をさすりながら、得体の知れない紙細工を拾い上げたフィンゴルフィンの耳を打ったのは、軽やかな女性の声だった。
「……アナイレ、姫」
 フィンゴルフィンは呆然と彼女の名前を呟いた。辺りが眩しい気がする。目がちかちかする。なんだ、これは?
「ごめんなさい。それ、あたくしの粗相ですの。返して頂けないかしら?」
「あ、……ああ、それは、失礼を。どうぞ」
 小さな手が紙を受け取る。触れそうで触れない手。
(あわい、花みたいな指)
 フィンゴルフィンはぼんやりそう思った。まろやかな白に、消え入るような紅の色。
「まあ、ご無礼ね」
 笑いを含んだ声に瞬く。気づけばフィンゴルフィンはアナイレの手をしっかりと握りしめていた。一瞬の間があって、フィンゴルフィンは真っ向からアナイレの顔を見つめた。
「――作法を教えていただけますか」
「あたくしでよろしいの?」
「あなたが良いんです」
 離すのが名残惜しくて、つい、とらえたままの指先に口づけた。アナイレはくすぐったがるように笑った。
「それも無礼なことよ、フィンゴルフィンおにいさま」
「では、どうすれば良いんですか」
 挑むように言うと、アナイレはふと真摯な目になった。
「そうね。まずはお伺いをたてるのよ」
 フィンゴルフィンもいずまいを正した。眩暈はそのまま胸の裡で火になったようだった。
「アナイレ。抱きしめさせてください」
「兄として?…それとも?」
 フィンゴルフィンは目を閉じた。なるほど、これが…
「恋人として」
 あわく咲いた指先がするりと手から抜け出た。改めて、高貴な方の礼の形に手を差し出される。
「では申し込んで頂戴」
「――私の恋人になってください」
「良いわよ」
 アナイレは鮮やかに笑った。そして呼んだ、フィンゴルフィン――彼のとった行動はもちろん、ひとつだけ。

+++   +++   +++   +++   +++

 当人たちはすっかり忘れているかもしれないが、どうやら晴れて“恋人”になったらしいふたりの足元には、ぽてんと“鳥さん”が転がっている。
「あれじゃーさー取り返すも何も存在忘れてるよね。作戦か?」
「…………。作戦なんじゃないですか」
 フィナルフィンがテラスに寄りかかって、だれた声で言った。マエズロスはテラスに手を置いて、隠れる気もなくしゃっきり立っていた。
「いっか。あれじゃ絶対拾わないし中身も見ないだろうし」
「そうですね」
 ふたつの視線の先でとっても親密に寄り添う“恋人”たちは、たった今そういう関係になったとはとても思えない感じだった。フィナルフィンは、ふー、と溜息をついた。
「にしてもねぇ、頑固さん。んー、いいと思うよ?っていうかあそこまで素直に真っ直ぐにちゃんと性格良いひとあまりいないよね」
「王家の良心だと思います」
「あれ、父上は?」
「おじいさまは王家どころかノルドールの理性だと思います」
 フィナルフィンは横を向いた。“恋人”たちを凝視し続けるマエズロスを見る。
「どうでもいいけどなんで丁寧口調なの」
「見たものを信じられなくて驚いています」
「気持ち悪いよ夢の上…」
「気持ち悪いとか言うな脳天気天の下」
「あ、戻った」
「戻ったじゃないよ!ねぇ今のってアレってどう言うの!?いつの間にそんな仲!?」
「びっくりしたねー。あーでもあり得なくはないっていうか、むしろ納得?」
 へら、と笑ったフィナルフィンの目の前で、マエズロスは眉間にきゅっと皺を寄せた。あ、異母兄上そっくりー、とフィナルフィンは思う。
「納得は納得だけど……っつーか正直ズルい」
「え?」
「うっわなんかそう思ったらムカついてきたな。天の下といい、鳥篭姫といい、なんでそんな良さげな相手見つかるわけ。親のせいでフラれる僕はどうしたらいいわけ」
 フィナルフィンは目をぱちくりさせた。正直驚いた。
「…えっ…何夢の上密かにオツキアイとかしてたの…?」
「それなりにね。でも奔る火さんが原因でごめんなさいって言われるね」
 ふん、と鼻を鳴らしたマエズロスは、それでもちょっぴり悲しそうだった。

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 そんなことから幾日か経った頃。
 マエズロスは王宮の廊下で突然誰かに飛びつかれた。
「…アナイレ?…ちょっと、どうしたの」
 背中にしがみついた彼女は震えているようだった。マエズロスは眉をしかめて身体をひねり、幼なじみの顔を覗き込む。
「――ぅわちょっと待って本当に。何その微妙な顔」
 背面から前面に連れてこられたアナイレは、上目遣いでマエズロスを見る。
「……そんなに微妙な顔してる?あたくし」
「微妙だよ」
「…どういう、ふうに?」
「笑いたいのか泣きたいのか、幸せなのか不幸なのか、困ってるのか決めたのか、微妙」
「あらやだ。なんて的確な表現」
 そう言うと、アナイレはマエズロスに抱きついた。よろめきもしないのを少し腹だたしく思う。
「あのね。たくさん口説かれちゃったの」
「それ報告するのに抱きつく意味がな――ぇえ!? …頑固さんに?」
 アナイレに抱きつかれたままマエズロスはずりずりと移動すると、廊下の欄干に腰掛けた。アナイレはマエズロスの膝に座りなおした。
「ええ。頑固さんに」
「……。で?」
「で、って?」
「口説かれて、それで、どうしたいの?“恋人”なんだから、どうとでもできるよ?」
 アナイレは、ぱっちりと目を見開いたままマエズロスを見つめた。
「夢の上――あなたに恋できたら、楽でしょうね…」
 呆れたようにマエズロスは笑った。それから、薄い鋼色の目をやんわり細めて言った。
「だから、恋できないんだろ」

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「―――ってことがあったの」
「私に開口一番それ言うあたりどうなんだって突っ込みたいとこだけど黙っとくよ」
「言ってるじゃない」
「わあ口がすべった」
 あからさまに棒読みで言うフィナルフィンに、アナイレは苦笑した。今日はマエズロスは王宮にはいない。珍しく、フィンウェの使いで出かけたのだった。
 アナイレは結構ふてくされて歩いていたのだが、犠牲者2号(※フィナルフィン)を見つけたのでこれ幸いと突撃したのだった。飛びついたりはしない。回り込んで「聞いて頂戴」と始めてまくしたてれば完璧である。
 フィナルフィンの方も慣れたもので、空き部屋のうち廊下から何をやっているか丸見えな所を選んで誘導した。マエズロスと違ってフィナルフィンは恋愛経験は多分豊富な方に入る。兄のある意味ものすごくヴァンヤ的な一途さも知っている。ついでに一途さにくっついている多大な嫉妬心も知っている。アナイレとフィンゴルフィンが“恋人”同士になったと悟った瞬間、フィナルフィンの心の中の「アナイレ取扱書」には「スキンシップ特に厳重注意!!」と赤字でぐりぐりと書かれたものだ。
「なーんで付き合ってないんだろうねえ、君たち」
 しみじみと言うフィナルフィンに謎めいた微笑みを向けて、視線を落として、アナイレは言った。
「………本当はね、夢の上って、告白も出来ないようなおとなしい内気なお嬢さん方に絶大な人気を誇ってるのよ」
 フィナルフィンは視線を逸らした。なんで知ってるんだ、そんなこと。
「………………でも相手が内気なお嬢さんだから、勿論あの夢の上のことだから気づかない…?」
 投げやり気味に、ここにいない幼なじみのほぼ唯一の欠点について言及してみる。マエズロスの、恋愛関係に関しての鈍感ぶりは決定的だ。むしろ致命的だ。
「気づいても、内気なお嬢さんが奔る火さんの前で堂々としていられると思って?」
 フィナルフィンは想像することすらしなかった。
「無理だね」
 アナイレは、んー、と口をとがらせた。
「そういう話を聞くと夢の上って不憫よね。奔る火さんは別に怒ってるわけじゃないそうだけど」
「へー良く知ってるね。私もまだ異母兄上の感情はさっぱりなのに」
「って、頑固さんが言ってたわ」
「わぉ、兄上情報」
 っていうか兄上は分かるんだーへぇすっごいー、と感心するフィナルフィンをちらと見て、アナイレは小さく笑った。
「フィナルフィン。あたくしが義姉になるのは、イヤ?」
「いやイヤとか言えないから」
「言える言えないの問題じゃなくってよ」
「ん、っと」
 きょろきょろと辺りを見回すと、フィナルフィンはぐっと身を乗り出して、囁き声でまくしたてた。
「正直言えば兄上は多分オススメ物件なんだと思う。少なくとも夢の上よりは良いと思う。王家のあれやこれやってぶっちゃけた話、外から見てるよりよっぽど根が深いし、めんどくさいから。だからどっちにしろ君の選択肢が王家の次男か直系長子かしかないんならそりゃもう自信を持って次男をオススメします。義姉上、大歓迎です。っつーか頑固さんフラれたらどれだけぼんやりになるか分かったもんじゃないそのままくっついちまえ」
「………最後だけ切実な弟の訴えをありがたくお聞きしますわ」
「はっまた口がすべった」
 半ば本気で口を押さえたフィナルフィンは、アナイレの表情を見て、何か息苦しいような気分になった。ああ確かに、アナイレは恋をしているのだ、今。

+++   +++   +++   +++   +++

 ある意味で散々だった祖父王の使いから戻ったマエズロスが王宮のいつものテラスでぼーっとしていると、何だか久しぶりに見たような気がするアナイレが、妙にすっきりした顔で現れて言った。
「口説いちゃったわ」
 言うと同時にマエズロスの膝の上に座る。
「口説かれてくれた?」
 当然のように受け入れて、マエズロスは聞き返した。アナイレはちょっと眉をしかめて微笑む。
「あのひと、空みたいなひとよ」
「ふーん?」
 銀の光を透かしてみる空は、今日はやけに薄い青だ。
「あたくしには、とても、心地良いのよ」
 噛みしめるように言うと、アナイレは急にむっつりして、ぷいとそっぽを向いた。
「……多分、殿方にはわからないわ」
 マエズロスはアナイレの腰に腕を回すと、よしよしと頭を撫でた。うー、などと唸ってアナイレは俯くと、小さな声で言う。
「…夢の上ならわかるかも…。どう?」
 目を閉じた。マエズロスはしばし考えると、そっと口を開いた。
「―――掴みどころはないけど絶対に在る、ってこと?」
「…そう」
 アナイレは目を瞠った。
「そうよ。わかるのね、マエズロス」
「………“聖らな館を訪うは”」
 マエズロスは目を開ける。歌うように告げる。
「“心定めし空なるひとよ”――アナイレ、すっごく幸せそう」
「あら…、だって幸せだもの」
「そっか」
 そうよ。アナイレが笑った。そうだよね。マエズロスも笑った。
 それは、全くいつもどおりでない非日常の状景。それでも彼らはとても幸せだと思った。

   おまけ① 直後のフィナルフィン

「何いちゃついてんのー」
 眉間に皺を寄せて、カンベンしてくれよと言いたげな風情でフィナルフィンが言った。幸せなのはいい。いい、が…。廊下から見かけて顎が外れるかと思ったくらいヤバい雰囲気を感じとったフィナルフィンだった。
「え、いちゃつく?誰と誰が?」
 まずはマエズロスが言った。フィナルフィンは頭痛がした気がした。
「君たち」
「なんで?」
「どのへんかしら?」
 アナイレもきょとんと首をかしげた。頭痛は酷くなりそうな気がした。
「…体勢が」
 これで分かってくれよ頼むから、と思って言ったことは、思いがけない反応を引き出した。
「え?これって普通じゃないの?お知恵さんよく輝さまとか穏さんにやってるけど?」
 フィナルフィンは一瞬頭がまっしろになった。
「え?お知恵さんよくツブれないね?あんなほッそいひとが」
 今の状況と一番関係なくどうでもいいことが口から出た。や、気になっちゃったんだ。フィナルフィンは自分の中で言い訳をする。マエズロスは自らの膝の上に座らせたアナイレを見上げ、軽くうんうんと頷くと、フィナルフィンに答えた。
「お知恵さんが乗ってるけど?」
「ぶ」
 絶句。衝撃で思考回路が戻ってきた。何はともあれ、この妙にヒネたボケをかます幼なじみをどうにかしなくてはならない。
「あのさ、夢の上、それ、……奔る火さんがお知恵さんにやられたら一撃必殺な行為だよ?」
 禁じ手を出してみる。何せ親ネタだ。食いつきが良いに決まっている。案の定、マエズロスは一応理解したようだった。ぽかんと口を開けて、それから言った。
「ええぇ?そんな重大事?」
「うんそんなわけで頑固さんに見られたらマズいからソレ」
 フィナルフィンはアナイレを引き剥がしにかかったが、当のアナイレがしがみついて離れようとしない。
「とーりーかーごーひーめー」
「やーよ、邪魔しないで頂戴」
「邪魔じゃないの忠告なの大人しく聞きなさいっ。ほら夢の上も何か言う!」
 手を添えるのをやめて宙に開いたまま、ぼーっとしていたマエズロスは、ええと、と首を捻った。
「頑固さんってヤキモチやきなの?」
「そこでボケなくていい!」

   おまけ② マエズロスのお使い話

「そういえば、夢の上はお知恵さんのお使いだったんでしょう?どこ行ってたの」
 聞かれて、マエズロスは目を泳がせた。
「……。あ、…んーと、……た、タニクウェティルとかいろいろ?」
「なんで疑問調なのよ」
「タニクウェティル?なに、輝さまに会いに行ったの?」
「うん…。まあ…。…そう…」
 思いっきり目を逸らす。あからさまに妙な言動に、好奇心の塊になった残りふたりは余計やる気になった。
「どうしてそんなに歯切れ悪いのよ夢の上」
 ざくっと突っ込まれて、マエズロスはあー、と言った。
「…何ていうか、春風さん差し置いて僕が使いってだけでド緊張だったわけだけど」
「だけど?」
「何?なんか出たの?」
「なんで分かるかなー。…出たよ」
 マエズロスは頭を抱えた。ふうっとため息をつく。
「何がよ」
「……誰が?」
「いや輝さまの所って時点で当然予想してしかるべきだったんだよ、忘れてた僕がアホなんだ。そうだよ。…あのさ、ふたりとも」
「ん?」
「なに?」
 ちらっとふたりの顔を見て、息を吸った。言ってしまえ――
「―――マンウェさまに会ったことある?」
「ええええええっ! 会ったのマジで!?」
「羨ましいわよ! 何ヘコんでるのよ!!」
 マエズロスはぱたんと耳を折りたたんで押さえてふさいだ。
「……いや…。何ていうか…。…その…。………強烈な御方でした…」
 他にどう形容しろと言うのだ。しかしふたりは容赦なかった。
「もごもごしてないでもっと話しなさいよ!」
「何何何何したのむしろ何されたの」
 目をきらきらさせているフィナルフィンを軽く睨んだ。どうしてバレるんだ。
「あーその…えっと、抱っこ、されただけだけど」
「抱っこー!? マジ見てえ何だそれ!」
 言ったら、フィナルフィンはげらげら笑い出した。チクショウ。
「ずるいずるいずるい羨ましい!すっごい面白そうじゃない、それ!」
 面白いというより何がなにやらでした。というか二度は遠慮したい。全力で。
「や、あの、それも緊張したけどそれ以上にびっくりしたっていうか、大変だったのは輝さまで」
「何なに?(きらきら)」
「どしたの?(わくわく)」
「…………いやあの…。…輝さまって、マンウェさまには容赦ないんだなって…」
 姿を目にした瞬間、つかつかと近寄ってきて、膝の上に拉致られていたマエズロスを丁重に引き離した後、「来ないって約束だったでしょうが!!」と見事な平手打ちでアルダの王の頬にもみじ模様を描いた、農作業姿のヴァンヤールの王は(そういえばあの格好は格好でビックリだった)、その後は完全にマンウェの存在を無視してマエズロスをもてなしてくれた。
 徹底的な無視ぶりにも驚いたが(どう引っ付かれていようが動きが変わらないのが恐ろしい。腰にしがみつこうが背後からのしかかるように抱きつこうがおかまいなしである)、何気にこちらの近況を尋ね忠告しつつ確実にトゲトゲしくマンウェにあてつけた台詞を吐きまくってたのにも驚いた。最終的には驚きすぎてなんか慣れた。
 そんなネタを言っていいものかどうか、きらきらした目のふたりを前に、マエズロスは当分の間悩みそうだった。