「私は王でありたいんだ。支配する者ではなくて、守り、育み、愛しむ者に」
そう言うのに少年のままでは難しいだろう、とエアレンディルは思った。
彼は変わった眼をしていた。色もまず変わっていた。朝焼けの海にふわりと浮かぶような淡い紫。もしくは夕暮れの岩場にひそりと咲く菫の色だ。
彼は少年だった。少なくとも、エアレンディルより幼い外見をしていた。彼は確かにエアレンディルの数倍長く生きているのだったが。
エアレンディルが青年と呼んでも差し支えない外見になった頃、彼は成長がとりわけ遅いという話を聞いた。
尋ねてみたら、彼はごく少年らしく瞳をきらめかせて、重大な秘密を打ち明けるように告げた。
「こどもでいたいんだ」
そういう眼は大人とは確かに言い難いような気がしたが、それでも、王の眼であった。だのに「こども」でいたいのは、きっと誰かのためだ。
良いのか悪いのかはエアレンディルにはわからなかったが、そういう望みの貫き方もあるのだなと思った。
彼と会うのは、たいてい明け方の海辺だ。
菫色の海を、彼は何かを激しく問うように眺めている。
エアレンディルが衝動に駆られ、夜通し船に揺られて戻った夜明けには、白い砦の端にぶらぶらと足を投げ出して、まるで落ちそうに風に吹かれている彼を見つけるものだった。
彼はエアレンディルを見つけると、瞳を切なく細めてゆうるりと笑う。
エアレンディルは何か照れくさくなって、少し歪んだ笑みを返す。
「王になって驚いたのは、大きな愛というものが存在するのだと、実感として感じたことだな」
いつぞや、波打ち際をぶらぶらと並んで歩きながら、彼が言った。
「いとこ違いの君、そなたもそうだ。治めるのとは違う。もっと違う意味で、そなたも私の民だ」
たとえばいつか、自分が子を持って。エアレンディルは思う。
その子はきっとすぐに彼の外見を追い越すのだろうけど、その子にもきっと彼は、愛しく笑うのだろう。
守るように。心を満たすように。