そのひとは「やっと会えた」と言った。
まもなく現世に蘇るというそのひとは、マイグリンを見留めると華やかな笑みを浮かべて駆け寄って来た。
「会いたかった!」
抱きしめられた。マイグリンは震えた。
少し銀の彩を持った金髪が、 水の中のマイグリンを揺すぶった。
いつも水の中にいるような気がしていた。とても澄んで静かな、つめたい水の中に。見ることも触れることも、聞くことも、つめたい水の殻を通して感じていた。
それなのに渇いてたまらなかった。干上がった喉は舌を重く膨れあがらせ、言葉を罅入らせた。
マイグリンは言いたいことも言わずに済ませてきた。微笑みで心を鎧い、懼れを誰にも打ち明けずにきた。水から出たら外は火の海だと、そういうふうに感じていた。
そうやって今まできたからだ、とマイグリンは思った。
そのひとは困ったように微笑んだ。愛しくてたまらないと言うようにマイグリンの頬に指を伸ばした。マイグリンは自分の涙に気づいた。
「嫌なことは嫌と言うんだよ」
俯いた、そのマイグリンの額に口づけて、そのひとは涙と共に水の殻を破った。
罪は無いなどと言うつもりはないし、思ったこともない。
望みを貫いて、我を通して死んでいった両親が憎らしくも妬ましくもあった。言葉にすればそういうことだった。ついぞ形造られることはなかったが。
マイグリンは咽び泣いた。泣くために泣いた。初めてのことだった。
つめたい水の殻で守っていたのか閉じ込めていたのか。
どうやら心は傷ついていたのだった。痛みすらわからないほど。