くしゅんっという可愛いくしゃみが最初、だった。
だがそんな可愛いくしゃみも連続して何十回だか出ればハッキリいって『病』以外のなにものでもない。
「飲みなさい」
窓を閉めているから風通りの悪い(むしろ空気が悪い)部屋で相変わらずフィンウェは紙に埋もれていた。
「飲んで、それから窓を開けていったん換気」
「やだ」
「……窓は開けなくていいからとりあえず飲みなさい」
「やだ。すごい不味そう」
「お言葉通り不味いがくしゃみは止まる」
かりかりかりかり。フィンウェは黙って俯いて紙にペンを走らせた。しばし後、ずずっと洟をすする音が聞こえた。それから。
ひくしゅっ。
湯気がひしゃげた。フィンウェはかなり充血した眼で目の前のお茶を睨みつけた。
「だってこれ、アレでしょ。その昔のあの粉末でしょ。クソ不味いじゃん」
「…更にクソ不味いぞあなたの為に調合変えたから」
「やだー!何それ絶対飲まないっ」
「私は飲んだ」
「イングウェが飲んだって意味なっくしゅっ!」
「飲んで、この通り元気だが?」
笑ってやると、くしゃみが続くせいで潤んだ眼で、薄ら赤くなった鼻でフィンウェはぷうと膨れた。
それでもお茶に手を出そうとはしないので、私は奥の手を使った。
「飲みたくないならいいが、なら今すぐ私とローリエンまで」
「飲みます」
えいや、と妙な掛け声をかけてフィンウェはお茶を飲み干した。涙目が一瞬ひどくなった。
そこまで嫌か、イルモさまに会うのは。……いや、不味さのあまりの涙目か?
効き目は最高だが味は最悪。この粉末のお茶はいつだって味という強敵を抱えている。